落語日記 色々なおかずが詰まった幕の内弁当のように楽しい落語会
令和4年度 いんざい寄席
6月25日 印西市文化ホール
年に一度開催されている市の施設である文化ホール主催の落語会。馬治師匠が地元在住の落語家としてときどき出演されている。今回、久々に馬治師匠が出演なので出掛けてきた。
会場は、座席が市松模様で定員が半数となっている。客席は、おそらく地元印西市民の皆さんで満員御礼の盛況。中には、顔見知りの馬治ファンがちらほら。
出演者は落語協会、落語芸術協会、五代目円楽一門会、若手からベテラン、落語に浪曲と、バラエティさに富んでいて、まるで幕の内弁当のような楽しさのある落語会だった。
桂伸ぴん「出来心」
前座は桂伸治師匠のお弟子さん。口跡明瞭でキッチリした印象の前座さん。以前、遊かりさんの独演会で拝見した。寄席以外で呼ばれるというのは、仕事の出来る前座さんの証し。
金原亭馬治「短命」
マクラは、印西在住の馬治師匠ならではの地元話から。この会場は最寄り駅が成田線の木下駅。徒歩15分と結構歩く。車じゃないと不便なところ。その木下駅も、30分に1本という不便さ。電車利用の師匠方は大丈夫だろうか、観客も納得の笑い。
本編は、寄席でよく掛けている演目。遠まわしに訳を伝えるご隠居と、呑み込みの悪い八五郎とのもどかしい会話が続く。観客もご隠居同様にもどかしさを感じるので、ここを笑いに変えるのは中々に難しい噺だ。素直過ぎることの可笑しさ、恥ずかしくて房事過多を直接言えないという大人な老人のもどかしさ、そんな噺本来が持つ可笑しさで勝負した馬治師匠。爆笑ではないが、じんわりとした可笑しさの空気で会場を暖めた。
三遊亭兼好「壺算」
五代目円楽一門会きっての人気者の登場。マクラから、辛口の話題で笑いを重ねている。
マスクしていると、みなイイ女に見える。マスク外したときに、がっかりした表情を見せないように気をつけましょう、コロナ禍での笑い話に会場は大受け。また、高齢者が多めの観客を見て、小じわが取れるという薬はほぼ詐欺、という健康や美容に関する話題。小じわの取れる効果的なマッサージをお教えします、とやってみせて、小じわは無くなりますが、深い皺が出来ます、で大爆笑。
本編は、そんな詐欺的商法のマクラから、客が店を騙す逆詐欺の噺。おそらく得意の噺なのだろう。笑いどころの多い一席となった。
兼好流として気付いたところ、兼好スペシャルと思われるところを並べてみる。
瀬戸物屋に負けさせる決め手のセリフは、子供のころ爺さんの為に酒を買いに行ったときに50銭負けてもらえなかった、その後、亡くなった爺さんが店に化けて出た。このエピソードが決めてとなって交渉成立。
この瀬戸物屋の店員、柔らかな口調で女性っぽい。算盤に3円入れて3円を足すことを、何度も繰り返す。この単純な繰り返しが爆笑を呼ぶ。この辺りは漫才のリズムネタのよう。これは、壺を担いで帰るときの掛け声にも表れていて、「イイの買ったねっと、イイの買ったねっと!」とリズミカルで楽しい。
下げも、店側が釣りを渡すというもので、これは初めて聴く型。兼好オリジナルかもしれない。そんな、兼好スペシャルな一席で盛り上げた兼好師匠だった。
仲入り
玉川太福「男はつらいよ~寅次郎頑張れ!」
曲師 伊丹明
会場の雰囲気から、浪曲初体験の観客が多いと感じた太福さん。この日は自ら取り組んでいる寅さんの浪曲化の中から第20作「寅次郎頑張れ!」の一席。それも、映画の本筋部分は少な目で、浪曲という演芸の話や、この映画の解説的な話で笑わせたところが多い。まさに、浪曲初心者向けの構成だったと思われるが、これが大成功。かなり笑いを意識した口演に、客席も大喜び。
この作品のゲスト出演者の中村雅俊と大竹しのぶを物真似で表現。この中村雅俊が、ときどき田中邦衛に聞こえるところが可笑しい。この登場人物、誰かわからないよいうなら名乗ります。なるべく名乗らせないように想像力を働かせてください、これも大受け。
浪曲初心者が多い雰囲気を感じとって、浪曲に親しみを持ってもらうという意図で構成したと思われる太福さん。その意図どおりに、大成功な一席だった。
三遊亭小遊三「替り目」
笑点で人気の小遊三師匠の登場。会場の熱気から、このテレビの人気者を見ようと集まったことを感じさせる。
そんな期待に応えるかのように、マクラは笑点を廻る話から。出演者の話、笑点を作った立川談志師匠の話。そんな笑点話を観客は感心しながら聴いている。少し毒舌を利かせた笑点メンバーの紹介や笑点の演出の話は、暴露話を聞いているようで面白い。なので、持ち時間の半分は、長いマクラに費やされる。おそらく、この長いマクラは定番化しているのだろう。笑点メンバーが、地方公演に強いのは分かる気がする。
なので、本編は寄席サイズ。酔っ払いの部分のみ。この酔っ払いの表現、相手をする女房の応対、短い中にも凝縮されていて、さすがの技量。酔っ払い亭主が憎めない、愛嬌のある男として描かれている。そんな、噺の本質をきっちりと抑えていた一席だった。ただ、喉の調子が本調子でなかったようで、ちょっと残念。人気者だけにお忙しいのだろう。どうか、身体を労って欲しいと願うばかり。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?