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黒猫のさんぽ

青空のもと冷たい風が吹きます。
ぴゅうぴゅうぴゅう。
黄色くてきれいなイチョウの葉もぜんぶ落ちてしまいました。
寒くて冷たい冬がやってきたのです。

冬の町に一匹の黒猫がいました。

黒猫は今日もパトロール。
いつもの道を見回ります。

道ばたで一人の女の子が泣いていました。
「大切なものをなくしてしまったの。
それはもう戻ってはこないの」
黒猫は頭をなでられながら話をききます。

黒猫は思いました。
この子の悲しみはこの子のもの。自分にはどうすることもできないと、黒猫は知っています。
けれど、もう戻ってこなくても、大切なものと過ごした思い出は君だけのものだよ。

黒猫はくるくると喉を鳴らします。

そのうち女の子の手をするりと抜け、黒猫は去っていきました。


ある家の庭で一人の男の子が泣いています。
「僕が遊べない時でも、みんな楽しそうなんだ。僕って本当に必要なのかなぁ」
黒猫は背中をなでられながら話をききます。

黒猫は思いました。
そんなことどうだっていいじゃない。
自分のことを一番必要なのは、自分自身。
気が向いた時に友だちと一緒に楽しめばいい。
それだけのことだよ。

黒猫はしっぽをゆらゆら揺らします。
そのうち男の子の手をするりと抜け、黒猫は去っていきました。


空のたかいたかいところに、一番星が出てきました。

黒猫は毎日ひとりで、楽しく過ごしています。

でも、そんな黒猫にも会いたい人がいます。
けれど今はまだ、会えません。
次に会えた時に笑顔で話せるように、今はここでせいいっぱい生きようと決めているのです。

寒くて冷たい冬がやってきました。
でもまた、春はやってきます。
木も花も草も、春の準備をしているのです。

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