我が家にお月さまがやってきた
2020年7月のある日、突然キューブ状のダンボール箱が届いた。20cm×20cmの大きさで、少し重みがある。amazonではない。日頃本ばかりが届く自分には珍しいかたちの代物だった。
ワレモノ、ガラスのラベルが貼られたその荷物をおそるおそる開封すると、中から白くとろりとした月があらわれた。
ああ、そうだ、待っていたのだ。注文ボタンをそっと押した今年の1月から。
いや、もう10年以上前から。私はこの日を待ち望んでいた。
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eclipse(エクリプス)。
月食や日食など蝕を意味する単語である。
その名前を冠するカップアンドソーサーに出会ったのは、かつて荻窪にあったカフェ「moi」(モイ)だった。
フィンランドのまちの茶室をイメージして作られたその場所に、一時期通っていたことがある。静かで落ち着いていて、大好きな場所だった。サードプレイスと言って差し支えない、ほっとひと息つける心の拠り所。
そのお気に入りの店の中で、一目惚れしたのがこのうつわだった。白くてシンプルで、機能性を備えながらもうつくしい。いつもフードのオーダーをする時は、心がむくむくわくわくするものだけれど、moiではその楽しみが常に2倍だったのだ。
そんな魅惑の食器は、なぜeclipseという名前なのか。写真で説明してみよう。
月の内側にカップを置くと、右に食べ物を配置できるようになっている。何度見てもこの設計、素晴らしい。デザイナーは梅田弘樹さん。
コーヒーを淹れたので、ここでカップを中央に置いてみましょう。そうすると、月が完全に隠れます。そして、飲む時にはまた三日月がひょっこり顔を出すという仕掛け。飾らないのに遊び心がある、その姿勢を見習いたい。
私は長いことずっとこの食器に夢中だったのだけれど、こちらはお店のオリジナルで非売品。まさか自分で焼くわけにもいかず、憧れたまま月日は過ぎていった。
そうこうしているうちにmoiは吉祥寺に移転。私もだんだんと足が遠のいてしまい、好きなうつわのことを思い出すことも少なくなってしまった。
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お別れは、ある日突然やってくる。
2019年秋にmoiが閉店すると知り、なんとか滑り込みで駆けつけた。お店は常連客などで大変にぎわっていて、とても愛されていることを再確認した。そして自分がこの空間を大切にしていたことも。
カメラロールを探してみたら、案の定eclipseを撮影していた。もうこれで見納めだと思っていたので、とにかく思い出を残したかったようである。フィンランド風シナモンロールも大変美味だったので、また食べたい。
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moiという場所でのお月見は、昨年をもって終わってしまった。
けれど再会もまた、ある日突然やってくる。
まず、moiの店主、現Moiの代表である岩間さんがnoteの街に登場した。
続いて、eclipseのことが書かれた記事が登場。このお話は本当に素敵です(ちゃっかりコメントを残してしまった)。
そして、遂に満を持してこの食器は2020年の1月に復活。しかもクラウドファンディングの販売商品として。なので、買える。つまり、自分の手元に来る。
あのカップとソーサーが、自宅で使えるなんて。
また、お月見ができるなんて。
全私が泣いたことは言うまでもない。
世界中でこれほどまでにひとを笑顔にする食器はない、と岩間さんはコーヒーカップの記事で書いていた。本当にそう思う。いつでも月と遊べるコーヒーセットなんて、なかなかない。
有田焼に生まれ変わって、Moiと新たに名付けられたうつわ。今年の困難な状況の中で、製造してくれた窯元さんにも感謝したい。無事に手元に届いたことが何よりもうれしいです。
ようやく愛してやまない「月」に会えた。どうか末永く一緒にいよう。
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