アンチェイン(2/2)
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「グッ……!」
すかさずアンチェインはジャンプ! 空中にいるブロイラーマンを掴んだ。落下式パワーボムだ!
ドゴォオオオオオオ!
床を突き破り、二人は瓦礫とともに下の階層に落ちた。
もうもうと埃が舞い上がる中、アンチェインは再びブロイラーマンを高々と担ぎ上げ、容赦なく再度パワーボムをかける!
「まだまだァア!」
ドゴォオオオオオオ!
床を突き破り、二人はさらに下の階層のトレーニングルームへ落ちる!
アンチェインが三度担ぎ上げたとき、ブロイラーマンはとっさに相手の頭を両手で掴み、顔面にくちばしで突きをお見舞いした。
ドスッ!
「ぐお!?」
眉間に受けたアンチェインは顔を押さえ、ブロイラーマンを床に放り投げた。ブロイラーマンは受身を取って転がり、体勢を整える。
「ハァーッ! ハァーッ! ハァーッ!」
ブロイラーマンは己の未熟と油断を呪っていた。アンチェインの実力を見誤っていたのだ。ここまでのパワーがあったとは!
アンチェインは手に付いた自分の血をぺろりと舐め、余裕たっぷりに構え直した。ブロイラーマンのダメージが大きいのを見て取る。
「終わりかよ、ブロイラーマン! このままじゃ血羽の恥部として歴史に残るぜ!」
「歴史、歴史ってしつけえ野郎だな。そんなに教科書に載りたいか?」
「まあな。これを見ろ」
アンチェインは両手を広げて部屋を見回した。ガラスケースに様々なトロフィーや記念盾、メダルなどが並んでいる。いずれもアンチェインが人間時代に取った、格闘技大会の優勝の証だ。
「男として、戦士として生きるのならば、名を残すために戦わんでどうする! お前だってそのために戦ってんじゃねえのかい?」
「興味ねえな」
呼吸を整えながらブロイラーマンは言った。
「知りもしねえヤツらが俺の名を知っていたからって、それが何だってんだ」
「ハ! 野望が小せえなあ!」
アンチェインはブロイラーマンにずんずんと向かって来た。
ブロイラーマンはダンベルの錘《おもり》を手に取ると、フリスビーのようにアンチェインに投げつけた。
ガン!
アンチェインはそれを片手で叩き落とす。
「トレーニング器具をオモチャにするんじゃあねえ」
改めて両者は対峙した。
ブロイラーマンは足にダメージがあるため、踏み込みがやや鈍くなっている。遠間では不利だ。となればお互いの額がぶつかるくらいの近距離まで接近し、足を止めての殴り合いに望みをかけたいところだ。
だが歴戦の格闘家であるアンチェインはその目論見を見抜いている。常にブロイラーマンと一定の距離を保ち、長身と長い手足を生かして遠い間合いから牽制打を繰り返す。
「ハァッ!」
バシ、バシ、バシ!
アンチェインのジャブ、前蹴り、中段蹴り! 接近を試みるブロイラーマンはそれらにことごとく突進を止められてしまう。
(なるほどな。これが実戦経験の差か)
ブロイラーマンは舌を巻いた。アンチェインは試合巧者なのだ。だからといってブロイラーマンは諦めてはいない。この血族を、そして鳳上赫を倒さずして兄の未来はない。
「オラアア!」
ブロイラーマンはあえて痛めた右足で一気に踏み込み、相手の顔面に決死のストレートパンチを放った。だがその一撃は鋭さを欠いている。
アンチェインはすかさず身を沈めてかわし、先ほどと同じように下段蹴りをブロイラーマンの右足膝側面に放つ!
瞬時、ブロイラーマンの脳裏に師匠・佐次郎の言葉がよぎった。
(((こっちがボクサーだとわかると必ず足元を狙ってくるヤツがいる。そういうヤツに食らわせるために俺が考えた技を教えてやる。ケンカ屋時代に思いついて、まあ実際は使い物にはならなかったんだが……)))
ブロイラーマンは右足を上げ、すかさずアンチェインの蹴りを踏みつけて止めた。
ガッ!
「何……」
アンチェインの眼が驚きに見開かれる。
「オオオオオラアアア!」
ブロイラーマンはその場に釘付けにしたアンチェインの足に対し、渾身の瓦割りパンチを入れた! 佐次郎直伝の技、膝殺し!
ドゴォ!
「グワアア!」
「有利な立場にいると思わせて足元をすくう。名言だぜ、先輩!」
よろけて後退したアンチェインに食らいつくブロイラーマン!
「ウオオオオオ……」
相手の懐に入った瞬間、ブロイラーマンは怒涛のごとくラッシュをかけた。殴る殴る殴る!
ドゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「……ッラアアアアア!」
「ナメるなァアアア! 俺は! アンチェインだ!」
だがアンチェインとて剛の者である。彼はパンチを浴びながらも強引にブロイラーマンに抱きつき、担ぎ上げた。
「うおおおおお!」
そのまま壁に突進!
バキャア!
壁を突き破る!
アンチェインはブロイラーマンの腰に手を回して抱え込み、さらに前方へ突進した。その先にあった壁をさらに突き破り、サウナルームに入る!
バキャア!
狂った雄牛のごとく壁に突っ込んでは自分諸共ブロイラーマンをぶつけ、ダメージを与えているのだ。だが次第にその足取りがおぼつかなくなり、よたよたとふらつき始めた。ついにその場にひざまずく。
「グ……オオ……!」
なされるがままのブロイラーマンではない。アンチェインの首を脇の下に抱え込み、全身全霊で締め上げている。
アンチェインは血走った目を見開き、涎を垂らして己の頚椎が軋む音を聞いた。
「グオオオオアアアアアア!」
アンチェインは絶叫した。死力を尽くして立ち上がると、これまで以上の勢いで壁へと突進!
バキャア!
突き破ったその先には何もない。建物の外壁だ。二人の血族は組み合ったまま汚染霧雨が降りしきる虚空へと躍り出た。
アンチェインはブロイラーマンが下になるよう体の向きをコントロールしている。ブロイラーマンから着地するようにして落下ダメージをすべて与えようと言うのだ。恐るべき勝利への執念であった。
だがその両腕にはもうほとんど力が残っていなかった。ブロイラーマンはアンチェインの手を切って拘束を脱すると、両足で胸板を蹴飛ばして自分は真上に飛んだ。
ズドォーン!
アンチェインが地面に大の字に落下する。
酸欠でぼんやりしたアンチェインの眼には、空中で猫のように回転して体勢を整えたブロイラーマンの姿がいっぱいに映った。右腕を野球投手めいて大きく引いている。
「ああああああああああ!」
「ウオラアアアアアアア!」
ブロイラーマンの右拳がアンチェインの胴体に突き刺さった。バンカーバスター!
ドゴォオオ!
アンチェインの体内で衝撃波が炸裂し、その体を破裂させた。
グシャア!
ブロイラーマンはアンチェインの死を確認した。その場から離れ、数歩行ったところで力尽き、ひざまずく。
懐から真空パックの袋を取り出して封を切り、中の玄米グラノーラを口に注ぎ込んで食べた。血羽の血が好む穀物のエネルギーが全身を巡る。少しずつダメージが引き、呼吸が落ち着いてきた。
数分の後、ブロイラーマンは立ち上がった。
グズグズに潰れたアンチェインの死体に振り返り、呟く。
「名を残すことなんかねえ興味ねえ。俺は仲間と家族の記憶に残ってりゃそれでいい」
(続く……)
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