原点にして頂点。常に革命を起こし続ける「DOOM」という作品【DOOM Eternalレビュー】
あなたはFPSというゲームジャンルを知っているだろうか。「一人称視点(ファーストパーソン)」で「シューティング(銃や魔法やで攻撃する)」を行い、敵を倒していくゲームの総称である。(こととする。なんか諸説あるよね)
ゲームの方向性も様々であり、カジュアル系、お祭り系、スポーツ系、リアル系…などなど、数え切れないほどのジャンルが「FPS」という枠の中に入っているのも特徴だ。例えば、APEXなどは初心者でも始めやすく、戦場を走り回る作品のため、スポーツとカジュアルを合わせた作品と言えるだろう。Rainbow six siegeは体力の低さや破壊表現、そして異なる能力を持ったキャラクター達からリアル系の非対称型ゲームと言える。リアル系の元祖であるCSGOや、CSGOの元となったvalveの歴史的傑作FPSであるHalf-Life、役割を極端に分けることで自分好みのプレイスタイルを確立できるTeam Fortress…そのほかにも王道から変わり種まで、数えきれないほどのゲームがFPSというジャンルの中に存在する。
では、FPSというジャンルの開拓者は誰なのか?
答えは「DOOM」だ。
今回は、DOOMがFPS界に与えた影響と、シリーズ最新作である「DOOM Eternal」の素晴らしさについて書いていこうと思う。
FPS界にそびえ立つ「DOOM」というランドマーク
1993年、まさにコンピューターゲームがこれから発展していこうとしている時代に稀代の傑作「DOOM」は発売された。
天才ゲームデザイナーであるジョン・ロメロ氏の率いるチームが作ったDOOMは世間的に知名度の低かったFPSというジャンルにおいて、大成功を収めたのだ。FPSという名称ができるまでの間、FPSというジャンルは「DOOMライク」と呼ばれるに至ったほどに。
ではなぜ、知名度のないジャンルの作品がそれほど売れたのか?理由は山ほどあるだろうが、一言で言うならば「あらゆる点で革新的だった」からだ。
見たことのない視点移動、画面の中心がそのまま敵を狙う位置となる斬新なUI、そしてトリガーを引くとグロテスクにはじけ飛ぶ悪魔達……。
どれもこれも、当時のゲーマーが見たことのない画面だった。2Dだけだったゲームの世界に、(疑似ではあるが)3Dという新たな次元が誕生したのだ。
一人称視点であるが故に、ドットだけの世界であったにもかかわらず当時のゲームとしては圧倒的な没入感を持った作品が、圧倒的な爽快感のある暴力的でグロテスクな破壊表現を携えて誕生したのだ。流行らない理由がない。
FPSの原型となったこの作品、他にもゲームデザインが優れている点が多々あるのだが、それについては後の項で解説していこう。
何故かって?
過去にゲーム業界に革命を巻き起こした異端児は、現代においても同じゲームデザインで革命を起こしたからだ。
私はDOOMによって「麻薬中毒者」となった
1993年から27年経った2020年、DOOMの最新作が発売された。id softwareの傑作「DOOM Eternal」である。私はこのゲームをプレイした時、まさに麻薬をキメた時のようにハイになってしまった。言うなれば「DOOMジャンキー」だ。
麻薬中毒者のように悪魔の血肉を求め、ショットガンをぶち込んで瀕死になったデーモンを殴り殺し、時にはチェーンソーで内蔵を抉り出し、デーモンの身体から溢れるヘルスとシールドと弾薬、そして血液をその身に浴びることが最高の快楽となってしまった。
なぜこのゲームが私をここまで狂わせたのか?
FPSをプレイする中で「忘れていた興奮を取り戻すことができたから」だ。
FPSの礎を作り上げた伝説の作品
少し前にも記述した通り、1993年からDOOMという作品の本質は変わっていない。個性豊かな銃を目まぐるしい速さで持ち替え、その場その場にあった判断で敵を殺していく。初代でも最新作でもやっていることは同じだ。では、なぜ現代でも通用する面白さがあるのか?ひとつの要因は、製作者の発言から読み取れる。
ジョン・ロメロ氏は昨今のFPSを見てこう語っていた。「武器が多すぎる」と。確かに最近のゲームでは武器がかなり多く、差別化がされていない物もチラホラ見られる。似ているが完全に上位互換のような武器や、逆に性能が変わり映えしないような武器もある。結果、片方の武器は使われなくなるようなことが多々起こるのだ。(弱い銃の方がロマンあって好きな時もあるけど…リロードがクソ遅いリボルバーとか)
しかし、DOOMでは初代の時点から「拾った武器の性能が一切被らない」というゲームデザインになっているのである。
ピストルは弾持ちがよく、ショットガンは近距離戦において最強。チェインガンは瞬間火力が破壊的で、ミサイルランチャーは着弾地点に壊滅的なダメージを与える。
このように、あらゆる武器に特徴を持たせている。あって当たり前の武器種だと感じるかもしれないが、思い出して欲しい。このゲームが作られたのはFPSというジャンルが存在しない時期なのだ。
つまり、その後に出た全てのFPS作品がDOOMを参考にしていると言っても過言ではないだろう。
敵を撃つ楽しさだけを抽出したゲームデザイン
FPSゲームで敵を撃つ際、普通はどのような行動を行うか?
1.銃を覗き
2.敵を狙い
3.引き金を引く
という、3つの動きを行わなければならない。
そして、弾を撃ち終わった後はリロードを挟まないと再度武器を使うことはできない。
これは現代のFPSに見られるスタンダードな動きであり、この行動の流れに疑問を持つ人はいないだろう。私だってそうだ。
しかし、DOOMの開発チームはこの行動に対して「敵を撃つ楽しさを阻害する要素がある」と判断した。
その結果、DOOMというゲームからは「銃を覗き込む」ことと「リロード」という行動が削除された。(一部の改造で銃を構えたりリロードを行う必要がある場合はあるが)
その結果、ゲームにどんな変化が訪れたか?
銃を構えずとも、弾が中心に飛んでいくゲームシステムに変更したことにより、エイムの際に移動速度が低下することが無くなり、戦場を縦横無尽に駆け巡りつつあらゆる角度から敵に銃弾を打ち込むことが可能となった。
リロードを削除したことにより、プレイヤーが銃を撃つことが出来ない時間が極限まで減り、あらゆる武器を瞬時に入れ替えながら撃ち続けることができる。
DOOMの辞書に「防御」の文字はない…と言わんばかりの振り切れ方だ。
戦場を駆け巡るために用意されたシステム
縦横無尽に走り回りながら銃を撃ち続けるというゲームだと解説したが、このゲームスタイルを補強するシステムが他にも存在する。
「弾速の概念」と今作から追加された「ダッシュ」である。
「弾速の概念」だが、これがかなりシステムとかみ合っている。敵が撃った弾には速度が設定されているため、撃たれてから横方向に移動すれば避けられる。逆に言えば、立ち止まることはすなわち「死」なのだ。そして、今作から追加された「ダッシュ」は、一瞬で加速し、瞬歩のような形で地上・空中にかかわらず咄嗟に移動することができる。これにより、先述した弾を避ける行動を行いやすくなっている。この二つの要素とゲームの銃の仕様が組み合わさり、遠距離から銃を撃ちながら敵の弾をダッシュで回避し、懐に潜り込んでスーパーショットガンで粉々に粉砕するというゲームプレイが可能になっている。
戦場を動き回る必要性と楽しさを増幅させ、常に死と隣り合わせの戦闘を演出しているのだ。
デーモンは全員資源箱だと思え
このゲームには、体力の自動回復は存在しない。弾薬も所持上限が低く、戦ってるうちに枯渇してしまう。ではどうやってを体力・シールド・弾薬などのリソースを回復するのか?
答えは「敵を殺す」ことだ。
デーモンがよろめいている瞬間に近接ボタンを押せば…………グチャリ!目の前の敵が主人公の拳で肉塊に変わる。そして全身から青色の回復アイテムが飛び出してくるのだ。
シールドを回復するのであれば、火炎放射器で敵を焼いた後に攻撃を行えば、またもや全身からポロポロと緑色のシールドが出てくる。焼いた後に近接攻撃で倒せば体力とシールドが同時に得られるので一石二鳥だ。
では弾薬が足りなくなったら?チェーンソーで敵を切り刻むのだ。すると敵の身体の中からまるでピニャータのようにカラフルな弾薬達があふれ出てくる。めちゃくちゃ気持ちがいい。
とどのつまり、このゲームの敵はプレイヤーから見た資源箱となっているのだ。資源箱がこちらを殺しに向かって来ているのだから、こちらとしても目をギラつかせながら殴りに行くのだ。これが楽しくて仕方ない。
記事を読んでいる皆さんもそろそろわかってきただろう。
このゲームでは、どれだけ不利に立とうが攻めに攻めまくればいつの間にかリソースが回復していくゲームデザインとなっているのである。これも、このゲームがほかのFPSとは異なる点である。
結果的に、プレイヤーはリソースを追い求め戦場を駆け回りながら敵を惨殺するDOOM Guyとなり、敵を倒し続けた結果、いつしかリソースとは関係なく敵の血を追い求めるようになっていくのだ。
瞬時の判断が生死を分ける激しい戦闘
このゲームには様々な敵が存在する。純粋に強い敵、厄介な敵、弱点を突けば一瞬で死ぬ敵、単純に資源箱のような敵……
それらの敵に対して、プレイヤーは様々な選択を迫られる。
まず、倒す順番だ。このゲームの戦闘では区切られた空間に所狭しとデーモンが溢れかえる。その敵全員に倒す優先順位をつけて片っ端から倒していかなければならない。
次に、弱点属性を狙い撃つことだ。デーモンには弱点が設定されており、ぞの弱点を突くと劇的に倒しやすくなるため、敵を認識した瞬間にそのデーモンの弱点武器に持ち替え、ありったけの弾薬を叩きこむことになる。
そして大切なのが、リソースの確保である。強いデーモンの攻撃を食らうと主人公は一瞬で瀕死になる。撃ち続ければ弾薬も枯渇する。そのような場合、戦場においてどのような行動を行えばいいか?皆さんもご存じの通り、「敵を殺す」のだ。弱いデーモンを見つけ、その時点で一番足りないリソースを回収する。体力が足りないなら殴り、シールドが足りなければ燃やし、弾薬が足りなければチェーンソーで切り刻む。
目まぐるしく変わる戦場において、次のターゲットを決め、弱点武器に持ち替え、必要とあらば資源を回収するために瀕死の状態で敵のど真ん中に突っ込んでいく。
これらの繰り返しを全て一瞬の判断で行っていくのである。脳内麻薬が出ないはずがない。
これだけ聞くと、大変なプレイを強いられると思うかもしれない。しかしそこは天下のDOOM、しっかりと考えられている。
殴りやチェーンソーで敵を倒す際、モーションが0.5秒ほど入るのだが、その瞬間は自分が操作をしなくても大丈夫な時間であり、次にどう動くべきかを落ち着いて考えられる時間となっている。
この0.5秒ほどの時間がキモであり、これ以上短いと思考時間として短すぎるが、これ以上長いとゲームのテンポが悪くなってしまう。
実によく考えられた、非常に美しい「休憩時間」である。
狂気を感じさせるレベルデザイン
ここまでゲームシステムについて語ってきたが、レベルデザインも同じく素晴らしい。
このゲームの狂っている点として、直前にボスとして出てきた敵が、次の戦闘で複数体出てくるのだ。
「キミ、さっきこいつ倒してたよね?じゃあ何体でも倒せるよね?」という開発者の声が聞こえてくるかのようだ。
しかし、めちゃくちゃなことを言っているわけではなく、苦戦した相手であっても倒し方さえわかればリソースの尽きない限り何体でも倒せてしまうのだ。
そのため、ゲームに飽きがくることが全くない状態で、常に新しい知識を生かしながら戦闘を行うことができる。
そのせいで後半の戦闘があり得ないぐらい忙しくなっている。最高だ。
ゲームを象徴する武器、スーパーショットガンとBFG
このゲームの武器は9種類存在し、様々な特徴がついているのだが、その中でも私が好きな武器2種について書こうと思う。
一つ目がスーパーショットガン。皆さんも見たことがあるかもしれない。一般的にはダブルバレルショットガンと言われている武器であり、ゲーム内では近接戦闘において無類の強さを誇っている。歴代作品でも常に出てきている銃であり、シリーズを代表する武器の一つと言える。
ところが、今回のスーパーショットガンは一味も二味も違う。このゲームデザインにおいて、これ以上ないほどのかみ合い方をしている特殊能力を引っさげて登場したのだ。
その特殊能力とは、「ミートフック」。敵に鎖を飛ばして掴み、その後鎖を巻き取ることで自分が相手に高速で近づくのである。これが最高にゲームと武器の性能にかみ合っている。
戦場を走り回っている間に次のターゲットを決め、鎖を飛ばして捕まえる。そして、ターゲットに勢いよく近づき…ズドン!最高火力の状態でスーパーショットガンを顔面に叩き込むのである。考えた人間は頭がおかしい(誉め言葉)
更に狂っていることに、この武器をアップグレードすると鎖を飛ばした敵が炎上するのだ。つまり、鎖を刺して敵に勢いよく近づき、超近距離でショットガンをぶち込めば血肉と共にシールドが飛び散るのだ。本当に天才だと思う。
正直、ここまでゲームデザインとかみ合った武器はどのゲームを探してもなかなか見つからないと思う。それほどまでに感動した武器だ。
二つ目はBFG。
正式名称は「Big Fucking Gun」
日本語に訳せば「クソデカくて最強の銃」とかになると思う。最高
その名の通り作中最強の武器であり、食らったデーモンは基本的に全員死ぬ。いざという時の切り札であり、どうしようもなくなった瞬間に助けてくれる武器なのでとても気に入っていた。特に名前が。
ちなみに作中で使用された際には火星の表面にドデカイ穴を開けていた。爆笑してしまった。
まとめ
今回も長々と語ってしまったが、「DOOM Eternal」という作品は間違いなくシングルFPSの傑作であり、戦闘の楽しさに関しては今までのFPSを数年単位で置き去りにしてしまったと言えるレベルまで高められている。
キャンペーンのFPSに飽きてしまった人にこそオススメしたいゲームであり、マルチ対戦型のFPSと比較しても緊張感や興奮度などは遜色ない…どころか、上回ってしまっているとさえ思っている。
今作は間違いなく今後数年間にわたって語り継がれるべきゲームであり、まさに初代DOOMのようにシングルFPS界隈に新たなランドマークを築き上げた。
かくして、「DOOM」という作品は「Eternal(不朽な)」シリーズへと変貌を遂げたのだ。