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【創薬技術紹介 vol.1】 DNA-Encoded Library(DEL)

こんにちは。くすりのみーたです。
今回から創薬技術の紹介をしていきます。
第一回は、最近注目のDNA-Encoded Libraryをご紹介します。

本記事は、以下のような方におすすめです。

  • 創薬の用語をサクッと勉強したい

  • 広く創薬関連の知識をつけたい

  • ビジネスに活かしたい

もっと詳しく知りたい方、研究者の方は、一番後ろに参考文献を乗せています。ぜひ最後まで読んでいってください。


DNA-Encoded Library(DEL)とは?

DNA-Encoded Library(DEL)は、新しい薬の候補を探索する手法の一つです。疾患の原因となる標的分子にくっついてくれる低分子化合物を見つけます。
DELでは、数百万種類もの化合物が、1つの溶液の中に少量ずつ含まれています。これを標的分子を混ぜあわせ、くっついた化合物だけを選別(セレクション)します。選別された化合物の構造を調べることで、薬剤候補を特定するのですが、化合物の量が非常に少ないために、直接検出するのは困難です。そのため、DELでは各化合物の構造を識別するために、固有なDNA配列がタグ付けされています。取れてきた化合物のタグを次世代シーケンサーという機械で読み取ることで、結合した化合物の構造を簡単に特定することができます。

DNA-encoded libraryの模式図。
各DNAの色が、各化合物のパーツに対応します。(文献4からの図の引用)

通常の大規模なスクリーニングでは、調べる全ての化合物を一定量用意し、一つ一つ活性を調べなければならないのに対し、DELでは1つの溶液で多数の化合物を調べることができます。そのため、より短時間かつ低コストで、新薬候補を見つけることができるのです。

DELを用いた薬剤候補探索の流れ

  1.  DNAタグ付き化合物の化学合成:化合物の元となるパーツにDNAを付け、その後パーツを足していきます。パーツを連結するごとに、そのパーツに対応するDNA配列を伸長していきます。

  2.  DNAタグ付き化合物をまとめ、ライブラリを作成:出来上がった数百万種類のDNAタグ付き化合物をまとめて一つの溶液にし、多種類の化合物の混ざった「ライブラリ」を作成します。

  3.  標的へ結合する化合物を選別:作成したライブラリの中の化合物を、病気の原因となる標的分子と混ぜ合わせ、結合させます。結合しなかった化合物は洗い流して除去します。

  4.  結合した化合物のDNAタグ読み取り:結合した化合物のDNAタグを抽出し、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)などの手法で増幅します。これにより、結合した化合物のDNAの量を増やし、次世代シーケンサーで読めるようにします。次世代シーケンサーで読んだ配列情報を解析し、それぞれのタグに対応する化合物を特定します。

  5.  ヒット化合物の再合成、結合評価:特定した化合物を化学合成し、標的の作用を阻害/促進しているかを調べたり、さらにその活性を上げるための構造の最適化などを行います。

標的に結合するかどうか」をベースとした手法のため、得られた化合物には標的の作用にあまり影響のないものも含まれます。そのため、取れてきた化合物の活性を別の方法で調べます。
しかし、標的の作用に影響の少なかった化合物も、少し変えたら大きな作用が得られるポテンシャルがあるため、次の段階に進む候補として残しておく場合があります。

どんな薬が見つけられるの?

基本的には低分子化合物ですが、低分子といっても比較的大きく、より標的の形にぴったり(強く)くっつきやすいことから、これまで薬を作るのが難しいとされてきた標的へアプローチできる可能性があります。特に、これまでの低分子化合物では難しかったタンパク質間相互作用の阻害や、2つの大きなタンパク質をくっつけるような働き(Molecular Glue, PROTAC等)への応用も期待されています。また、細胞の見た目の変化から化合物の働きを調べる表現型スクリーニングに応用し、抗生物質になりうる化合物も得られています。

X-Chem社がAutotaxinを標的としDELから得た化合物の構造。
最適化前でも結構大きい。(文献4からの図の引用)

以下のような様々な標的への薬剤候補が報告されています。

  • タンパク質酵素:Kinase、Protease など

  • 感染症:抗生物質 など

  • 代謝酵素:ADP ribosyl transferase/polymerase など

  • タンパク質間相互作用:シャペロン、GPCR など

  • 核酸、クロマチン関連:Bromodomain など

イギリスのグラクソ・スミスクライン(GSK)社を中心として、DELから得られたさまざまな効果を持つ低分子が報告されています。まだ販売には至っていないものの、2014年あたりから2023年3月に至るまで、報告数はどんどん増加しています。

DELから新規薬剤候補が得られた論文数の推移。(文献4からの図の引用)

2023年の時点では、X-Chem社のオートタキシン阻害剤が臨床第一相試験まで進んでいます。これは、肺の壁が分厚く固くなってしまう特発性肺線維症という病気の薬になる可能性があります。

一方で、化合物のパーツが限られていることや、化合物でなくDNAタグの方が標的とくっついてしまう可能性があるという欠点もあります。

日本の製薬会社での活用

田辺三菱製薬さんでは、2018年から中国のHitGen社と共同研究という形で、DELを用いた創薬を行っています。
HitGen社では、1兆を超える数の化合物から薬の候補を見つけられるそうです。

いかがでしたでしょうか?
詳しく知りたい方は、以下に参考文献、Webサイトを載せていますので、良ければそちらもチェックしてみてください。


参考文献、Webサイト

1) https://www.jstage.jst.go.jp/article/medchem/28/2/28_93/_pdf

2) https://www.hitgen.com/en/capabilities-details-1.html

3) Goodnow, R., Dumelin, C. & Keefe, A. DNA-encoded chemistry: enabling the deeper sampling of chemical space. Nat Rev Drug Discov 16, 131–147 (2017). https://doi.org/10.1038/nrd.2016.213

4) Peterson, A.A., Liu, D.R. Small-molecule discovery through DNA-encoded libraries. Nat Rev Drug Discov 22, 699–722 (2023). https://doi.org/10.1038/s41573-023-00713-6


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次回もお楽しみに!



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