【洋服屋の自分史②】たかが洋服であっても、その人にとってはかけがえのないものがある。シューズ編

前回は、恥ずかしながら、思い入れのコートのお話をしました。

今回は革靴のお話をします。

突然ですが、みなさんはアランフラッサーって知っていますか?

知らないですよね。彼は、英国ウンザー公をレスペクトしており、クラシック、トラディショナルなスタイル重視のアメリカ人デザイナーです。日本では、オンワード樫山とリーガルがライセンスを取得生産していました。

Allan flusser

The duke of windsor

日本ではほとんど知名度がないデザイナーですが、実はアランフラッサーは、映画「ウォール街」(初代)で主演したマイケルダグラスの衣装を手掛けた人物。数々の賞も受賞しています。また、服装論の本をいくつか上梓しています。特に「Clothes and the Man: The Principles of Fine Men’s Dress」と「 the Art of Permanent Fashion」の2冊は有名です。

しかし、当時はサンローランやアルマーニ、ベルサーチなどモードの潮流が高まっており、その中で彼のトラディショナルなスタイルの提案は多くの支持を得ることは難しかったように思います。

福岡の大学に通っていた私は、当時日本のブリティッシュトラッドブランドに加えてラルフローレンやサルバトーレセザラニ、ジェフリーバンクスなどのクラシックなファッションを軸にした実力派のデザイナーにも強い興味を抱いていました。当然のごとく、その中にアランフラッサーも仲間入りしています。特に映画ウォール街の衣装にはしびれました。

大好きだったのは、卒業後アパレル企業に就職した後購入した、「ベージュのギャバジンのスーツ」でした。あまりの佇まいにまわりが引くほどで、素晴らしい完成度だったと思います。

さらに、同じ時期購入したものがあります。それはスエードのレンガ色のツーアイレットのウィングチップ。はじめて買ったスエードのこの靴は、所有する大量の靴達の中で最も好きなもののひとつです。丸みのあるフォルム、トップラインのしぼりは独特で、アランフラッサーらしく靴紐にタッセルがついています。良い意味でも悪い意味でもクセが強いデザインの靴です。

これは、日本製靴(現リーガル)のプレステージラインとしてライセンス販売されていたもので、かれこれ20年以上大事に履いています。ややショートノーズなので、裾幅が広いパンツの方が相性がよく、モードなスタイルに飽きた時などに夏はリネン、冬はフランネルのパンツに合わせて履くことが多いです。

購入した場所は、福岡市の中心街の天神新天町商店街。そこで一目惚れしました。多々著名なシューズブランドがありますが、今まで似たようなものに出会ったことはありません。まさに「ありそうでない」靴として私のシューズボックスの中に静かに住みついています。挫折の多い私の人生にずっとついてきてくれたことに感謝です。

アランフラッサーありがとう。

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