課題解決へのヒント1(Points of Solution 1)
日本経済は過去30数年間にわたって成長しなかったうえに、1990年頃以来の円安で、物価は上がるけれども賃金は上がらない社会となりました。アベノミクスが残した負の財産を背負って、どのように進めばいいのか、社会運営の責任者たちは踊り場で立ちすくんでいます。
国権の最高機関である国会(憲法第41条)をないがしろにするような運営を長く続けた裏では、みんなで領収書のいらないお金作りに励んでいたのです。
連合国軍が日本を占領していた時のマッカーサー最高司令官が聞いたら“21世紀の日本人は18歳(高校生レベル)くらいにはなるだろうと思っていたけど、占領時の12歳から15歳になった(中学生レベル)だけではないか”と嘆くでしょう。
戦後の奇跡的な復興では強いリーダーシップの発揮が効果的でした。昭和の社会は「民はこれを由らしむべく、これを知らしむべからず」を基本とした「力」による運営に任せておけば大きな間違いはなかったからです。
昭和の高度経済成長をしていた時代は、社会や組織を運営する人たちが示す方向へ向かって、みんなで一緒に歩めば最大限の能力が発揮できました。昭和の社会運営は「追いつけ、追い越せ」を掛け声に、「先進国」入りをめざしたのです。人的資源以外に恵まれない日本は、新しい技術の開発や新しい設備に資金を投入して輸出を増やしトップレベルをめざしていました。
日本の高度経済成長は、工業製品を大量生産する「モノつくり」の現場に携わってきた技術者と技能者が支えてきました。彼らはモノとの対話を重視して、消費者受けするより良い(売れる)製品を作ってきました。職人が現場でウデとワザを磨く日本の「モノつくり」は、末長く守っていきたい大切な文化です。
しかし「モノつくり」の技術は世界のトップレベルにありながら、労働生産性は一向に改善されませんでした。労働生産性の向上はハードの技術だけではできないことが明らかになったのです。次々と新しい技術を導入する運営手法は、日本社会を運営する文化に合っていましたが、十分に合理的ではないからです。
社会や組織が合理的に運営されていない原因の一つには、参加者が対等に扱われていないという現状にあります。参加者が能力を100%発揮できない環境と、無意味な仕事の多いことが労働生産性の向上を妨げているのです。
これまで、日本社会の運営責任者たちは「モノつくり」を支える技術と熟練の技能というハードの技術に成長を頼りすぎてきました。責任者が所属している社会や組織の運営というソフトの技術を旧態依然のままにしてきたために、成長路線に変調をきたしているのです。ハードとソフトの技術が車の両輪のようにシンクロしていなければ、社会はまっすぐに進むことはできません。どちらかに頼る片肺飛行では遠からず無理が来るのです。
いま日本が先進国からこぼれ落ちようとしているのは「成功体験」にこだわってきたことが主な理由ではありません。メッキが剥がれて真の姿が見えて来ているのです。課題解決には、社会や組織の運営という手法面と個別業務の改善面での取り組みが必要です。
一つ目の課題解決のカギは、人は違いがあって平等という概念を実践することです。人にみんな違いがあるのは、人はみんな違う時に違う場所で育つからです。人が所属してきた団体の文化は、それぞれ違っていて単一ではありません。社会はいろいろな文化が重なりあって絶えず変化していますから、違う文化が多いほど社会は豊かになることへの理解が必要です。
二つ目の課題を解決する道は、情報は社会の財産であるということの再認識です。日本は明治時代に急速に近代化して「先進国」をめざして「一流国」になろうとしました。高度経済成長を成し遂げて「先進国」の仲間入りは果たしましたが、社会を運営する「コトの営み」は未だに「一流国」とはいえない状況があります。これまでの日本が守ってきた「民は依らしむべし、知らしむべからず」に基づいた「力」による伝統的な社会運営を見直す時がきているのです。
三つ目の課題は、ポストの義務と権威が明確になっていない組織構成にあります。ポストの責任範囲があいまいなために、責任者が組織運営を公正に行わなかったとしても、責任を取らなくてもすむ運営手法は見直さなければ課題は解決できません。
記録を残すことが標準化されていない組織や、情報を公開することがルール化されていない社会は、執行者に都合のいい判断が許されています。社会や組織を運営する人は、法を犯さない限り何をしてもいいという訳ではありません。
責任者の解釈と判断次第で不正の温床ともなり得るあいまいな規則を見直して、社会や組織の業務記録を残す必要があります。運営状況を示す記録はできる限り公表し、内容が第三者によって検証できるようにしなければいけません。第三者が記録を検証できるとき、初めて社会や組織運営の品質保証が可能になるのです。日本が「一流国」を証明するためには、社会や組織運営の品質を保証するシステムを再構築する必要があります。
四つ目の課題は、日本人は「親切」だが「優しさが足りない」といわれていることです。日本人の「優しさが足りない」といわれることは、属性の違いに基づいて区別するのは当たり前という社会環境に見られます。
最近の報道を見聞すると、ハラストメントの種類の多さに驚くばかりです。特に、カスタマーハラストメントに民度の低さが顕著に表れているようで非常に残念です。
解決へのヒントは教育にあります。時間はかかりますが、質の高い「人つくり」の教育が唯一の解決策です。
今後「先進国」の仲間に留まり続けるためには、日本は変わらなければなりません。将来も世界から訪れる人たちに選ばれる日本になるためには「一流国」をめざす努力をしなければなりません。いま、真剣に「人つくり」に取り組み始めれば、決して遅すぎることはありません。
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