見出し画像

上下水道の整備(Improvement of Water Infrastructure)

1月1日に能登で大きな地震(震度7)がありました。被災現場を見ると家屋の倒壊や津波による被害、海岸線の隆起など能登半島の悲惨な状況が報道されています。7週間たっても多くの人が避難所で避難生活を余儀なくされています。道路の寸断による集落の孤立は解消されたようですが、自由通行ができるようになったわけではありません。断水や停電の復旧には時間がかかる状況も報道されています。
地震による断水の復旧は都市部と地方部では違いがありますが、これまでに発生した震度6の地震では、概ね1週間以内に水道の給水が再開されています。2007年の能登半島地震(震度6強)のとき、断水は2週間で復旧しています。震度7の場合は、東日本大震災を除くと、断水の復旧には3か月くらいかかったようです。台風や豪雨による断水は、地域に関わらず概ね1~2週間で復旧しています。今回、給水復旧に時間がかかると言われているのは、管路の被害もさることながら浄水施設が大きな被害を受けたことがあるようです。
2017年の統計によりますと、水道の基幹管路の耐震化率は全国平均で約40%です。配水池は約55%が耐震化されていますが、浄水施設は約30%しか耐震化が進んでいません。復旧に時間がかかるということは、今回の地震で能登地方の浄水施設や送水管が大きな被害を受けているだろうことは想像に難くありません。
水道管が本格的に敷設され始めたのは明治時代です。インフラ近代化の一環として水道管の敷設が進められました。敷設開始から50年後の家庭配水の普及率は約20%でした。次の50年間で水道管網はほぼすべての家庭をカバーしました。日本の水道管網は約100年で整備されたのです(2016年の統計では約98%の普及率)。
全国に水道管網が敷設された1975年ころの日本は、高度経済成長期にありました。水道配水網を完成させることが最優先でしたから、送水管や配水管と浄配水設備の耐震化は二の次でした。水道設備の耐震化が進んでいない理由は、短期間に限られた予算を使って整備しなければならなかったからです。全国で水道網の耐震化工事が進められていますが、水道設備の耐震化が完了するのは2050年以降と言われています。
国民が安全な水を利用できることは、先進国の仲間入りを果たすうえで最も重要な課題です。日本は全国をカバーする水道管網の構築を優先してきたので、今は能登半島を含めてほぼ全国民が飲料水を利用できる環境にあります。世界では人口の4分の1の約22億人が安全な水を利用できていないそうです。
話は変わりますが、避難生活でみなさんが苦労されていることの一つに、断水などによってトイレの使用が制限されていることがあります。トイレが使えないのは断水ばかりではなく、下水道設備も被害を受けているからだろうと想定できます。能登半島の下水道設備がどの程度整備されていたかわかりませんが、下水道設備の被害や仮設トイレによる感染症の発生が懸念されます。
近代的な下水道が敷設されたのは、1884年の神田下水が最初です。感染症対策のために汚水を集めて流す下水道ですが、雨水も一緒に流れる合流式で整備したのです。当時、下水道管の敷設は水質に問題があっても、費用が安くて早く下水道網が完成できる合流式で進められました。
1961年の下水道の普及率は約6%で1980年に約3割を超えました。2001年に約6割を超えて2022年には8割を超えています。先進国としては日本の下水道普及率が低いのは、予算に制約がある中では仕方がなかったと言えます。文化的に国を守るという意味において、予算の仕分けを検討する時期に来ているのかもしれません。
高度経済成長期の公害問題を受けて1970年に水質保全を目的として下水道法が改正されました。汚水と雨水の分流式が採用されるようになったのです。現在、分流式は全下水道処理区域面積159万haのうち23万ha(約14%)で敷設されています。
都市部でのゲリラ豪雨の時に、水が側溝やマンホールから路上にあふれ出る映像をテレビでよく見ます。都市部で多く敷設されている分流式の下水道管渠は、降雨強度50㎜/hを想定して設計されています。最近の線状降水帯による豪雨は100㎜/hに達することも珍しくありませんから、路上に水があふれるのは当然なのです。
明治政府は一流国をめざして「富国強兵」と「殖産興国」をスローガンにあげました。一流国になるためには近代的な軍隊を持つことと、産業を機械化することが最も重要と考えたのです。明治時代は国を挙げて一流国をめざして努力したので、近代化は数十年で達成できました。100年後には先進国の仲間入りを果たしました。明治政府は少ない予算で、短期間に近代国家に必要な基礎的インフラ整備をよくやりました。
先進国が少なくとも数百年をかけて作り上げてきたインフラに較べますと、日本は短い時間と予算が十分にない中でインフラ整備をしてきました。水や道路などの基礎的なインフラ整備は必要最小限しかできなかったのです。今も昔も時の政策が最優先されますから、社会資本整備に使う予算は限られているのです。
今でも多くの生活道路は狭くて歩道がないので安全が確保できていません。通りが入り組んでいて再開発が必要な街もたくさんあります。日本が耐震化が必要なライフラインや洪水を起こす河川などの基礎的インフラを整備し続けなければならないことには理由があったのです。
地震、台風、集中豪雨などの自然災害が多い国土でのインフラ整備は簡単ではありません。文化的な国づくりに必要な基礎的インフラ整備の予算とその他の予算の仕分けを検討する時に来ているのです。基礎的インフラの整備は人口減少の時代にあって、地方の文化的な生活を可能にし、日本が先進国であり続けるための最優先課題です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?