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日本の労働生産性(Labour Productivity in Japan)

2024年2月15日、内閣府は2023年の日本のGDP(国内総生産)は、ドイツに抜かれて4位に転落したことを発表しました。昨年11月の時点で国際通貨基金(IMF)は日本が4位になるだろうことを予測していました。IMFの2023年12月の発表では、日本のGDPは44,100億ドルでドイツは43,090億ドルでした。両国の差は10億ドルで、かろうじて日本は世界3位の座を守っていました。GDPはドル表記なので、円安によるドル換算によって3位と4位が入れ替わったと発表されていました。
1968年にGDP(当時はGNP)世界2位になり、1980年代には「Japan as Number 1」といわれました。しかし、実態は日本の労働生産性が低いために、私たちが生活にゆとりがあると感じたことは一度もありません。
ゆとりを感じられなかった理由の一つは、日本の労働生産性が低いことです。OECD加盟38か国中、長らく日本の労働生産性は20位前後で推移しており、G7の最下位でした。2022年の統計ではさらに転落して31位になりました。ちなみにアジアでは韓国が27位で日本より上です。
日本の労働生産性が低い理由はいろいろといわれています。多くは社会(組織)が古い価値観に縛られていることによるものです。具体的には、デジタル化が遅れていて、無駄な仕事が多く拘束される時間が長いのでモチベーションが上がらないとか、雇用を守る規制が多いので労働市場が固定化しているといった理由です。労働生産性を改善するためには、新技術を開発し仕事のデジタル化を進めて時間に連動している給料を改定するとか、労働市場の流動化を計る必要があると結論付けています。
日本の労働生産性が低い理由として、社会や組織の運営については話題になっていません。労働生産性が改善できない本当の理由は、日本の組織運営にあるのです。
一つ目は組織内の各ポストの業務範囲と内容(Job Description)が明確になっていないことです。多くの組織では各ポストのJob Descriptionをマニュアルなどの規則に表示していますが、ポストの責任と権限が組織内の共通認識となっていないか、規則がルール通りに運営されていないことです。日本の組織は責任者の運営次第で、ポストの権限と義務や職掌範囲が決まっていないようにみえることがあります。
よくあるケースは、ポストにつく人によって部下の仕事内容と作業手順が異なっていることです。誰がポストにつくかで、部下は何度も仕事の手直しをやらされたり、手戻りが繰り返されたりするので、余分の時間を取られています。上司によって業務の遂行が左右されるので、部下にとっては上司や周りへの忖度が重要になってきます。ポストに就いた人が、権限は行使しますが責任を取らないことさえあるのです。
二つ目は作業が標準化されていないことです。組織は誰がいつ、どこで、新しく参加するかわかりません。新しく組織に参加する人が前任者と同じように業務を執行できるとは限りません。誰がいつどこでやっても同じレベルの仕事をこなすことは期待できないのです。組織は誰がいつどこで参加しても、同じような結果が出せるように働く環境を整備して提供しなければなりません。業務の手順(Procedures)を見直せば、多くの無駄な作業や仕事がみえてきます。
日本が「Japan as Number 1」と言われていたころ、後続国は日本の「モノつくり」の技術を学んでいました。今では、彼らは日本を追い越していくようになりました。しかし、彼らは自分たちの組織に日本の組織運営手法を導入していません。彼らには日本型の組織運営に学ぶべきものがなかったからでしょう。
目に見える「モノつくり」の技術は先進国並みですが、日本の労働生産性は目に見えない「コトの営み」の技術が拙く組織の運営に課題があるから低いのです。
ドイツの人口は8,320万人で日本の12,570万人の約3分の2です。人口は3分の2ですが、GDPは日本とほぼ同じです。ドイツの年間の総労働時間は、日本より約20%短いですから、ドイツの労働生産性は日本より約5割も高いのです。
ドイツと日本の労働生産性の差は為替レートや産業の技術力、労働市場の流動性などに違いがあるといわれています。日本では労働生産性の改善のために、主に新技術を開発し最先端技術の実用化を進めて、終身雇用に基づく年功序列型賃金体系を見直し労働者の流動性を高める施策が行われています。
ドイツの「モノつくり」の技術すべてが日本より優れているとはいいきれません。両国の「モノつくり」の技術に優劣はありません。ドイツでも多くの人は一つの会社に長く勤めていますから、労働市場の流動性が日本より高いともいえません。ヘッドハンティングなどによる管理職の転職が少なくないのはどちらも同じです。
日本人の能力がドイツ人より低いということも考えられません。一人ひとりの能力に差はあるかもしれませんが、ドイツ人が日本人より少ない時間でより多くの仕事をしているということはありません。ドイツと日本の労働生産性の差は個人の能力差ではないのです。生産技術の差でもなく労働市場の流動性の差でもありません。
ドイツと日本とに労働生産性の差があるのは、組織の運営に違いがあるからです。労働生産性の改善は目に見える新技術の導入や、人員の配置転換などでは根本的な解決にはならないのです。労働生産性を改善するためには、日本の組織の運営に課題があることを正しく認識しなければなりません。組織運営の実態を検証(Audit)して現状を謙虚に見つめ直すことが必要なのです。
謙虚に現状を認識すると、日本の労働生産性がなぜ低いのか理由が見えてきます。日本の組織が一つの仕事に多くの人と時間をかけていることや、仕事に間違いや手戻り手直しが多いことがわかります。業務遂行に必要な作業のほかに、業務の本質とは直接関係のない仕事や作業をしたり、やらされたりしていることもわかります。
日本の社会には、やらなくてもよいと思われる仕事も多くあります。サービスだからという理由で、惰性でやっている仕事が多いのです。組織の力関係によって多くの人が多くの時間をかけてやらされている仕事も少なくありません。
人口が減少していく中で、日本が先進国グループに留まり続けるならば、労働生産性の改善は不可欠です。これまでの「力」に頼った組織の運営ではなく、参加者の公平性を守るフェアな運営を考える時です。労働生産性を改善するため、現状を正しく把握し改善点を取り上げて、運営手法の改善を真剣に検討しなければいけません。

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