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「第43話」「第44話」「第45話」

第43話 人生の意味

なんのために我々は生きるのか?
ビリッ。
その問いに答えた有名な学説を読んだ。
パリ。
我々は人間の姿をしているが、体は単なる一時的なキャリアとして、
ポリ。
染色体を永遠に次につないでいくための運搬具だそうだ。
パリポリ。
そのために我々は生まれ成長し、違う特性を持つ個体と交わり子を作る。
パリパリ。
その子が次の世代にまた染色体を引き継くように守り、育てる。
ポリポリ。
できるだけ多くの子供を設け、染色体を引き継ぐ次世代の拡大をはかる。
パリパリパリ。
このDNAに刻み込まれた使命にあがなうことは難しい。
ポリポリポリ。
そうであるならば私はもう役割を果たした。
パリポリパリポリ。
この先の人生に与えられし使命と意味はもうない。
ガサガサガサ。

あれほどダイエットしろと医者に言われているのに、
ポテトチップスの袋はもう空っぽ。
DNAは私に死に急ぐように誘っている。

第44話 街おこし


この街はとことん荒れてしまった。若者に仕事がないのだ。
彼らはエネルギーをもてあまし、悪行はエスカレートしてしまう。
街中の壁、店のショーウィンドウやシャッターを落書で埋め尽くしたかと思えば、夜な夜な店をこじ開け盗みを働いた。
通りを行く人に平気で暴行を働くようになり、街の外からも暴漢が集まるようになった。
警察は手が回らなくなって、人々は疲れて街を出て行く者も日増しに増えていく。
警察隊の増強を図ったが、その対抗の為に逆に暴漢が増え、いたちごっこになった。
にっちもさっちもいかなくなり、荒廃した街は崩壊への道を突き進んでいった。
行き詰った市長は、何を血迷ったか、街おこしコンサルタントを雇うことにした。
荒廃した街を次々と復活させたことで有名な彼でもダメなら、もうこの街は終わりだ。

虚ろなお爺さんを25人ほど集めてくれ。
そう、一日虚ろな表情でボーと立っている。背筋は伸びているが手がだらんとなっていて、なで肩の。
ヒザが少し曲がっているのがいいな。ズボンはちょっとズレてはかせて。
昔戦争で厳しい戦闘から生き延びたり、ビジネスで世界中を跳びまわったり、鉄工所で働きづくめだったりの武勇伝がある人だとなおいいな。
それと、農家で頑張ってき働いて子供を育てたお婆さんも25人ほど。
そうそう。腰が90度に曲がっていて、顔が地面と平行になって歩いている。
それでも街中を動き回り、出会う人に元気に挨拶しておしゃべり好きな。顔は日に焼けて真っ黒で、歯のない笑顔が溢れる。
そのお爺さんとお婆さん50人を街のあちこちに出てもらおう。
それだけ。それだけでこの街はよくなるよ。

この世に役目の終わった人なんていないんだよ。

第45話 やる気の源泉かけ流し

俺はオオサンショウウオって呼ばれているそうな。
昭和に栄えた絶滅危惧種。いわゆる働き虫だ。
若い頃から昼夜なく働いた。
最近はなんか馬鹿にされている気がするんだ。
「もっと心豊かな人生を」だってさ。
ほっといてくれ。俺は働くよ。きっと死ぬまで。
なんでそんなに働くかって?
うーん。働かないってことがよくわからないからかな。
会社では「社会のために働こう」って、毎朝大声で唱和してる。
毎日自分に言って聞かさないと忙しさにかまけて見失ってしまうからな。
でも唱和してるだけでなく、けっこう本気でそう思っているよ。
社会のためになっていれば、それが弱い人の助けになって、
広がれば世界の平和のためになるって信じてる。
やめろよ。そんなに笑うなよ。結局そうなんだって。ほんとだよ。

今日は暑いな。アイスを食べるぞ。
アイス工場のみんな。ありがとな。お乳をくれた牛さんにも感謝だ。
夜はてんこ盛りのもやしを食べた。安いからな。おいしかったよ。
それからたまには俺にもありがとうって言ってくれよな。

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