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漫画「プリンタニア・ニッポン」考察 第二弾


 私の大好きな作品、プリンタニア・ニッポンの考察第二弾です。
 私が第一弾を書いたのは2巻目が出た時だったので、それから2冊が追加されたことになります。
 第一弾の時に考察した謎に答えが出たりしましたが、一方で新たな謎が発生したりもしております。
 このnoteでは、第一弾の時の謎の答え合わせをしつつ、残った謎、新たに湧き出た謎についての考察をしていきたいと思います。

 まず、プリンタニア・ニッポンという作品を知らない人に向けて、この漫画がどんな作品かということを、おさらいしていきたいと思います。

 「プリンタニア・ニッポン」は迷子様によるWEB発のSF漫画です。
 2024年4月現在4巻まで発売中となっております。

 連載元はマトグロッソさん(https://matogrosso.jp/serial/printania_01-91/)というサイトでしたが、
これから始まる新章よりCOMICポルタさん(https://comic-porta.com/series/467/)に移籍されるとのことです。

【ストーリー】
生体プリンタのエラーによって出力された、丸くてモチモチの不思議な生き物プリンタニア。
“すあま”と命名された生き物と、その飼い主”佐藤”のほのぼの日常SFストーリー。


 のんびりかつあっさりとした性格の佐藤が、事故で生み出されたプリンタニア“すあま”、そしてどこかそそっかしい生活改善コンサルタントと共に過ごす日々を描いた作品。
 柔らかでもちもちして触り心地も良い、愛らしいプリンタニアたちが本当に可愛くて癒されます。
 若干コミュ障気味の佐藤をどんどんひっぱる賑やかな友人塩野や、落ち込みやすいけど頑張り屋な瀬田など、他の登場人物たちもユニークで大変魅力的です。

 ですが、そこにスパイスとして加わり、一味も二味も深みを出してくれているのが、この作品の世界観。

 この作品は、一度人類が滅んだ世界での超管理社会を舞台にした『ほのぼのディストピア』なのです。


 以下、完全にネタバレとなりますので、気になる方は良ければ先に作品をご覧ください。





 前回は三つの大きな謎について考察をいたしました。

 その際の考察内容や根拠などは、当時のnoteを見ていただくとして、まずは謎の答え合わせから行きたいと思います。

【第一弾で考察した謎】

①「大きな猫」とは何なのか
②佐藤たちは、そもそも何者なのか
③「ハリスとマリヤ」とは


①「大きな猫」とは何なのか

 前回の考察では、「「大きな猫」とはこの世界に管理体制を敷いた、旧人類社会から存在する高度AI」であると推理いたしました。
 それはおおよそ正解だったようですが、3巻4巻の中で詳しい事情と更なる謎があることが分かってきました。

 前回の推測が外れていたものの一つに、「生活改善コンサルタント」の正体があります。
 前回の推測では、「大きな猫」の管理端末と推理しましたが、これは間違っており、「ハリスの複製から始まったAI群」というのが正しいようです。
 これは4巻に記載のある「凪の劇」ではっきりと描かれております。
(ちなみにこの「凪の劇」では作中の多くの謎がいきなり解明されまくって、私は度肝を抜かれました。)

 そして同じく「凪の劇」では、「大きな猫」が新人類の生活の基盤を支え、助けることを使命と受け入れた人工知能であることが描かれています。

 ですが、ここでひとつの謎が新たに生まれます。

 「大きな猫」は旧人類が滅びてしまう前は、どこで何をしていたのか。

 3巻57頁および139頁において、「大きな猫は帰還した」ことを指し示す台詞があります。
 また4巻145頁では、マリヤは大きな猫に向かって「あなたの旅の友も目覚め……」と言っています。
 そして3巻の128頁129頁にあるノイズだらけの残兵とニュースの述べた「帰還」と「星外への脱出者より救援の続報」という言葉。

 ここから、現時点での予想として、

「大きな猫」は、星の外に脱出しようとした旧人類の作った、宇宙船に搭載されたAIだった


 と考えます。

 恐らく「大きな猫」は、何らかの理由で帰還を選ばざるを得なかった。あるいは、当初の目的を変更してでも、旧人類を助けるために星へ戻ってきたのかもしれません。
 そして、宇宙船は1隻だけではなく、複数旅立ったのではないかと思います。それが、マリヤの言う「旅の友」ーー「大きな猫」以外の宇宙船のAIなのだと推測します。
 4巻の最後に、プリンタニアたちは空から何かが来ることを気にしています。
 これは今後、宇宙に旅立っていった他の宇宙船搭載AIが帰還することを、示唆しているのではないでしょうか。



②佐藤たちは、そもそも何者なのか

 こちらも、「凪の劇」で完全に答えが出ておりました。

「地を整備するために旧人類が用意した思考しない奴隷」


 どえらいこっちゃです。

 いやえぐいえぐい。想像していたよりもずっとえぐい。


 「佐藤たちは旧人類のDNAから「大きな猫」が再生したクローン
 (あるいは、冷凍卵子・精子を使い培養ポッドなどで育った人造(猫造?)人間)
」と前回の考察では推理し、それは大枠では当たっていたようですが、背景がものごっついやばかった。

 旧人類の倫理観なんかは置いておくとして、新人類は「大きい猫」によって保管されていた、とありました。
 「大きな猫」の正体を宇宙船搭載AIと考えた場合、この場合の「整備される地」というのは彼らのいる星の大地ではなく、旧人類にとって新天地となるはずだった別の星の地だったのではないでしょうか。

 つまり佐藤たち新人類とは、

絶滅に瀕した旧人類が別の惑星で暮らそうと計画し、移住をする星を整備するための作業要員として送り込もうとした、奴隷たるクローン人間である


 と予想できます。
 思考能力やその他諸々の制限を掛けられたのも、旧人類が移住を果たす前に、彼らが星を自分たちのものとして独占してしまっては困るからでしょう。
 作中、新人類の中に女性の姿がないのも、親子関係の描写がないのも、彼らには生殖の権限が解放されていない、と言うことなのかもしれません。

 彼ら新人類が自然な生物として生きていくためには、最後の旧人類マリヤによる権限解放が必要になる、ということになります。


③「ハリスとマリヤ」とは

 「「マリヤ」は過去「何か」が起きた際に、「ハリス」に守護されていた人間であり、「ハリスとマリヤ」は現行人類の存在に対して、大きな貢献をした存在」として推理しておりましたが、これも、「凪の劇」である程度正解が出てきました。

 マリヤは最後の旧人類であり、奴隷であったクローンたちの思考制限措置を除外することを許可し、新人類としての発展を推し進めた女性であり、「ハリス」は彼女に最後まで付き従うことを選んだロボット

 であるということです。

 「凪の劇」の話の最初、文字の一部が消えておりますが、どうやらマリヤは旧人類の再興を諦めているようでした。
 しかし、新人類が発展していくことに協力は惜しまず、我が身を惜しまず守ろうとしました。
 それは新人類が、自身の過ちで残兵に襲われた時の行動からも明らかです。

 では、現時点でマリヤはどうなっているのか。

 マリヤは残兵に連れて行かれた、とあります。
 しかし、残兵の行動理念は「国民No.の提示のない人類の回収」であり殺害ではありません。
 また、3巻129頁に「冷凍睡眠システム稼働」とあります。
 残兵は回収の際に首を切り落とすような乱暴な真似をしますが、その際も「脳への負担を軽減するために薬液を注入」(2巻173頁)するという、最低限の保護を行おうとしています。

 つまり、

マリヤは少なくとも肉体だけは冷凍保存されている可能性が高い


 のではないでしょうか。

 マリヤを追いかけていったハリスは、4巻152頁で「自身のパーツをマリヤに渡した」「探して」と読み取れるセリフを述べています。

 マリヤは初期の段階で、渡りのシステムを試しています。
 冷凍保存されている肉体が見つかれば、彼岸においてその意識だけでも蘇らせることができるかも知れません。

 この漫画の着地点は、残兵に連れ去られたマリヤを取り返し、最後の旧人類マリヤによって新人類たちの制限がすべて取り除かれ、正しく「人類」としての歩みを始める、と言う形なのかも知れないと、そんなことを考えました。



 では、続きまして、新たに発覚した謎についての考察です。

④「残兵」とは何なのか
⑤「プリンタニア」は、そもそも何なのか
⑥「永淵」とは何者なのか

 最後のはオマケです。(笑)

④「残兵」とは何なのか

 上記「③「ハリスとマリヤ」とは」で書きましたように、残兵とは「人類の回収を行動理念とした旧人類時代の機械」です。
 その禍々しい外見と人体を分解・回収するという行動より、人間を殺す狂った機械のように見えますが、発せられるメッセージは常に丁寧であり、むしろ人類を守ることを目的としていることが伺えます。

 残兵について詳しく書かれているのは、3巻128頁の彼岸の奥底での場面です。
 そこで、残兵は人類の帰還を待ち望み、守る存在であることが匂わされております。残兵が人類を回収するのも、そうすることで人類を守れるとインプットされているからなのかも知れません。

 旧人類は、「侵入者」と呼ばれるものに攻撃を受けていた、と3巻129頁から読み取ることができます。
 それが旧人類が絶滅してしまった要因である可能性が高いです。

 つまり、

残兵とは、人類を脅かす「侵入者」を退け(回収し)、旧人類を守るために作られた機械である


 と考えられます。
 3巻128頁には彼ら残兵はDから始まる名前を、自称しているようです。
 メタ的な読みになりますが、「猫」との対比として残兵は元々「犬」の名を与えられた機械だったのかも知れません。

 ちなみに、残兵が元々人類を守るための機械だったとすると、ハリス(昔の守り)が優先的に襲われる理由が分からなくなります。
 もしかすると、ハリスは元々「侵入者」側の存在であり、裏切って旧人類(マリヤ)についたロボットなのかも……という妄想が頭を過ぎりました。
 もし本当にそうなら、これはこれで大変美味しいですが、ちょっと考えが飛躍しすぎて大空を羽ばたいている気もします。
 実際のところどうなのか、正解を知れる日が楽しみです。


⑤「プリンタニア」は、そもそも何なのか

 ニューチノー社のプリンターの事故によって、偶発的に誕生してしまった“とされる”プリンタニア。
 ですが、その元CEOの高城さんや永淵さんのセリフを見るに、どうやらその誕生は意図的な部分があるようです。

 特に気になるのは、永淵さんの

「よくもこんなに純度の高いものを」(3巻144-145頁)
「僕はこれとよく似たものを知っているよ」(3巻161頁)

 との言葉。
 新人類誕生の時から存在し続けている永淵さんは、恐らくほぼすべての情報を開示されていると思われます。
 つまり、旧人類の時代からの何かに、プリンタニアは似ている可能性があります。

 人への感応力が高く、傷ついた人に寄り添いたがる優しい生き物。


 正直、今の段階ではまったく想像がつきません。
 永淵さんは、佐藤への想いから巨大化したすあまに対して「純度が高い」と言いました。
 想いの力が形状に作用することを指して、純度と言ったのかも知れません。それはより「純粋」である、と言うことなのでしょうか。

 4巻においては、意味深な黒いプリンタニアも登場しました。

 しかしこの謎に関しては、考察できません。お手上げです。
 まあ、この作品の主題でもあるでしょうから、仕方ありません。(私の読みが足りないと言うのは重々承知の助
 大人しく、この謎が解明される時を待ちたいと思います。


⑥「永淵」とは何者なのか

 4巻において、多くの読者に悲鳴を上げさせたミステリアスな男、永淵さん。
 此岸においては夢捨屋を営み、彼岸においては管理人を営む不思議な存在です。
 彼の正体も、作中においてしっかりと描かれております。

 彼は、最初期に稼働を始めた新人類であり、猫の作った基盤から渡りのシステムを完成させたエンジニアであり、【永淵の友人】です。


 マリヤが連れ去られた際、新人類が暮らしていた施設にも残兵は侵入しておりました。
 そして大怪我をし、すでに自分は助からないことを悟った彼は、マリヤの冷凍睡眠装置をシェルター代わりにすることで、友人の永淵だけでも助けようと考えます。
 しかし、彼は自身の作ったシステムを使い意識だけでも永らえられることに賭けた永淵によって、逆にシェルターに押し込まれてしまったのです。

 その後のことは、明確には描かれていません。
 ですが実際に彼が彼岸の住人として存在していると言うことは、システムは機能したのでしょう。

 もっとも、きちんと機能したとは言い難いエラーの描写のあとの「君がこうなればよかったね」のセリフ。

 これは完全な私の妄想になりますが、恐らく未完成のシステムにおいて作り込まれていたアバターは、テスターとなった「永淵」のものだけだったのではないでしょうか。
 未完成のシステムに無理やり意識を送り込んだこと、未完成の彼岸において「永淵」のアバターで再生されたこと、自分ではなく「永淵」が生き残ればよかったと言う後悔、これらによって彼は本当の自分を見失ってしまったのではないでしょうか。

 「自分を見失ってから」という台詞は4巻100頁目で、彼が矢浦くんに言った台詞ですが、それは彼自身を指しているようにも思えます。
 また、彼の目はいつでもぐるぐるで、それは混乱した時の瀬田くんと同じです。

 つまり名前だけではなく、彼自身がバグってしまっているのです。


 ちなみに、彼の飼っているポチ太郎ペス之助なのですが、作者様の昔のツイートに、バグった名前で書かれています。

 この設定が、現在において正式なものとなっているかは分かりませんが、もしかするとポチ太郎ペス之助も、彼と似たような境遇なのかも知れないですね。


 さて、こんな感じでまだまだ謎の多いプリンタニア・ニッポン。
 新章に入ってどんなプリンタニアが、どんな人が出てくるのか、今から楽しみです。
 この先も佐藤とすあまとそらまめとコンサルの紡ぐ日々を、見守っていきたいと思います。

 おそまつさまでした!


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