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漫画「プリンタニア・ニッポン」考察

  (2024/4/1 追記) 考察第二弾できました。


いま、私の中で一番熱い漫画。
「プリンタニア・ニッポン」(http://matogrosso.jp/printania/00.html)についての考察をしたいと思います。

マトグロッソさんというサイトで公開され、2021年9月現在2巻まで発売中のこの漫画。
もう、考察した過ぎてnoteのアカウントまでつくってしまいましたよ。
それだけ魅力的で謎の多い作品です。

まずは、この漫画を知らない方にどんな作品なのか簡単にご紹介です。


【ストーリー】
生体プリンタのエラーによって出力された、丸くてモチモチの不思議な生き物プリンタニア。
“すあま”と命名された生き物と、その飼い主”佐藤”のほのぼの日常SFストーリー。


可愛らしい“すあま”と、のんびりした佐藤、そしてどこかそそっかしい生活改善コンサルタントの日常を追っていくだけでも大変楽しいこの作品。
柔らかでもちもちして触り心地も良い、愛らしいプリンタニアが本当に可愛くて癒されます。
若干コミュ障気味の佐藤をどんどんひっぱる賑やかな友人塩野や、落ち込みやすいけど頑張り屋な瀬田など、他の登場人物たちもユニークで大変魅力的です。
ですが、そこにスパイスとして加わり、一味も二味も深みを出してくれているのが、この作品の世界観。

 この作品は、一度人類が滅んだと思わしき世界での超管理社会を舞台にした『ほのぼのディストピア』なのです。


以下、完全にネタバレとなりますので、気になる方は良ければ先に作品をご覧ください。




はい、ではこの「プリンタニア・ニッポン」という作品において、謎は沢山あるのですが、今回は三つの大きな謎について考察してみたいと思います。

①「大きな猫」とは何なのか
②佐藤たちは、そもそも何者なのか
③「ハリスとマリヤ」とは


①「大きな猫」とは何なのか


この作品において、人類は管理社会で生きていることが伺えます。

・夜間の外出には許可が必要(1巻11頁他)
・食料は配給制(1巻58頁)
・居住区域や職業、与えられる情報などは、レベルによって制限がある(1巻11頁、29頁他)
・貨幣は存在せず、支給ポイントで物品やサービスのやりとりが行われる(1巻81頁他)

などなど、登場人物が皆それなりに幸せそうなので見落としがちですが、かなりガチガチの管理体制が敷かれています。
主人公の佐藤や友人の塩野などは、かなり高レベルである(1巻65頁3コマ目)ようですが、汚染地域で働く開拓層などはそこそこ不自由な暮らしをしているのかもしれません。

さて、そんな世界で一体誰が人類を管理しているのか。
それはどうやら「大きな猫」と呼ばれる存在のようです。

「大きな猫」が何なのかは、2巻までの段階では語られていませんが、断片的に読み取れる情報はあります。

作中、もっともはっきり「大きな猫」について語れれているのは、1巻のプリンタニア・プラン統括責任者のセリフです。

 「私の到達Lvはかなり高くてね いろいろな記録が開示されたよ」
 「大きな猫はどんなに寂しかったんだろうと思ってね」
 (1巻140頁1,2コマ目)

このコマでは、瓦礫が広がる中に、遠く一匹だけ猫らしき影が描かれています。
そして、その後のセリフに「大きな猫にはごりっごりに怒られた!」とあります。

と言うことは、この世界に大きな変革をもたらした『何か』が起きる前から、今に至るまで「大きな猫」は存在している。むしろ数少ない「生き残り」であることを伺わせます。


また、明確にこの世界で人類を管理している存在して描かれているのが、「評議会」「監視猫」そして「生活改善コンサルト」です。


「評議会」
作中では、モニターに映る猫の目として描かれております。
何か特別な許可を得る時、そして何らかの裁決を下される時、評議会に相対するようです。
「評議会はあなたの側に」というセリフが出てくるのですが、暴力的ではありませんがかなりの威圧感を覚える存在として描かれております。

「監視猫」
街中に配備される猫型の頭部を持ったロボットとして描かれております。
悪いことをした人は連行し、困ったことがあればやってきて対応してくれるので、お巡りさんのような存在ですが、名前通りだとすれば一番の目的は人々の監視なのでしょう。
かなりの個体数がいるようですが、その記憶はすべて統一化されているようです。

「生活改善コンサルト」
人類のよりよい生活と種族進化促進・改善のために配備されている(1巻22頁3コマ目)実体のないAIとして描かれています。
人類(とそのペット)のサポートと監視(1巻23頁1コマ目)を行う存在であり、基本的に一人につき一AIが配備されているようです。
(開拓層も付きっきりでサポートはしなくても、専属コンサルは存在している模様(2巻165頁5コマ目))


さて、この三つの存在は「大きな猫」の管理下にあることが窺えます。
猫のモチーフである「評議会」「監視猫」は分かりやすいですが、「生活改善コンサルト」もまた、人類のサポートと監視を行う存在であると伝えたコマに「Big CAT is Waching you」とモニターに映っていることを考えると(1巻23頁1コマ目)、「大きな猫」の管理端末であるのでしょう。
(「評議会」と「監視猫」に関しては、「大きな猫」の別名、あるいは一部であることも考えられますが、今回は別存在として考察しています)

これらのことを統括しますと、現時点での予想として

「大きな猫」とはこの世界に管理体制を敷いた、旧人類社会から存在する高度AI

であると考えられます。


②佐藤たちは、そもそも何者なのか


まず前提として、この作品の舞台は、望んだ生き物を作り上げる生体プリンタを始め、現代日本よりかなり科学技術が進んだ世界です。
そしてもう一つの前提として、かつての文化や風習などはほぼ失われてしまっています。
「管理猫」など管理者側は知識を持っている節がありますが、高レベル保持者以外にはその知識を開示しておらず、採掘された遺物や記録などから推測していくしかないようです。(2巻41〜42頁)

彼らは「現行人類(1巻81頁)」であり、「何か」が起こる前の人類文明とは、彼ら自身も乖離を感じているような節があります。(1巻28頁2コマ目)
ただ、「残兵」と呼ばれる旧世界のロボットは、「人の回収」を目的としており、「現行人類」もまた回収の対象となっていること、怪我をしたら血が出ることなどから、肉体的には「旧人類」と相違なさそうです。

また「旧人類」は何らかの罪を犯し、それがどうやら土壌汚染や文明断裂を引き起こした「何か」であるようです。
「進むことが我らの償い」(1巻114頁)「今更何をどう直しても我らに加護はありますまい」(2巻43頁)とあるように、贖罪を求める気持ちや罪悪感を「現行人類」は共通して持ち合わせているようです。

佐藤たち、この世界の人類はナンバーで管理されて、名前を持ち合わせておりません。佐藤も「佐藤46」で、塩野も「塩野1」です。
彼らは幼い頃から専属の「生活改善コンサルト」の世話を受けて育ち、我々が思ういわゆる「家族」という形態は存在しないように見受けられます。

そして何より気になるのは、この世界に「女性」が存在しないことです。
メインの登場人物にも、人混みの中描かれるモブの中にすら、女性は一人も描かれていません。
ここまで徹底的に排除されているとなると、女性と男性で完全に居住区域を分けられているか、あるいは女性が存在していない可能性もあります。

上記のことから、

 佐藤たちは旧人類のDNAから「大きな猫」が再生したクローン
 (あるいは、冷凍卵子・精子を使い培養ポッドなどで育った人造(猫造?)人間)

ではないか、という説を提唱します。

以下、そう考えた理由(考察というより私の妄想)です。
単純に名前の代わりにナンバーで管理されているにしては、番号がみんな若すぎるのが気になっております。
一番大きい向井さんでも62で、塩野にいたっては1です。
それだけ、現行人類が少ないという可能性もありますし、100くらいまでの番号を使い回しているという可能性も高いのです。
ですがここはあえて、作者のTwitterのおまけ漫画にある、塩野は非常に優秀である、という記述に注目したいと思っています。


ナンバーが1であり、かつ「引くほど頭が良い」塩野は、オリジナルにもっとも近いクローンなのではないか、ということです。

もうここまで来ると完全に妄想なのですが、「何か」が起きた際に何らかの形で残されたDNAを使い、「大きな猫」は現行人類を復活させた。
そしてDNAがオリジナルに近い順に1から番号を振って行ったすれば、塩野はオリジナル(「何か」の際に選ばれて残された、とすればかなり優秀な遺伝子と予想)に最も近いクローンであると考えられます。

まあ、想像が飛躍しすぎて大空を力強く羽ばたいてしまっているので、そう言う可能性もなくはない程度に思っていたければと思います。


③「ハリスとマリヤ」とは


「ハリス」と「マリヤ」は、その名を呼び捨てにする人もいれば、「様」をつけて呼ぶ人もいます。
遠野などは「様」をつけて呼ぶ代表格ですが、飽くまで「ハリス」の「ファン」として称され、宗教的シンボルとしては扱われていないようです。
しかしながら、「回顧祭」において神事の再現を試みる人が、その象徴に「ハリスとマリヤ」の住まいを選んだり、子どもの絵本の題材に「ハリスとマリヤ」が選ばれるなど、宗教的シンボルに近い、現行人類の根幹に根差す存在であることは想像に難くありません。

作中、その存在が明確に描かれているのは、「ハリス」のみです。
2巻129頁で明らかにされたその姿は、黒髪(ないし濃い色の髪)の男性体です。
彼はどうやら、機能を停止させたロボットであるようです。
そして、「監視猫」(あるいはその大元である「大きな猫」)とは憎まれ口を叩くような気易い関係であり、「生活改善コンサルタント」の核のオリジナルであると言われています。(2巻133頁)

「人の回収および適性モデルの破壊」を共通目的にしている「残兵」を誘き寄せるデコイに似姿を用いたこと(2巻132頁)、
「彼らは未だに昔の守りを優先的に襲いまスね」(2巻128頁)という記述から、ハリスもまた「何か」が起きる前から存在しているようです。
そして、「何か」の際に「残兵」と敵対し、旧人類あるいは現行人類に繋がる存在を守護していたと推測されます。


一方「マリヤ」は人間であると思われます。
それは「ハリス」が「マリヤ」にお菓子を作る絵本が存在していることからも、間違いなさそうです。
名前から得る印象では女性のようにも思えますが、毬谷と言う名字の男性というオチもあり得そうなので、そこは保留です。
そして、「マリヤ」はすでにいません。(2巻130頁)
人間であるならば、すでに亡くなっていても不思議はないのですが、「ハリス」が不貞腐れて機能停止したと言うことから、冷凍睡眠をしているという線もなさそうです。


以上のことから、想像を含みますが、

 「マリヤ」は過去「何か」が起きた際に、「ハリス」に守護されていた人間であり、「ハリスとマリヤ」は現行人類の存在に対して、大きな貢献をした存在


であることが予想されます。
正直言って、ほとんど分からないと言っているにも等しいですが、ここら辺の真相は作品のこの後の展開に期待したいです。


そんな感じで、ほのぼの可愛らしいキャラクターとストーリーに反して、かなりシビアな世界観ですが、そんなギャップがまたこの漫画の魅力であるのは間違いありません。
2021年9月時点では休載中ですが、2巻も出ましたことだし、更なる謎とその解明、あとは何よりプリンタニアの愛らしいもちもちの今後を期待したいと思います。

おそまつさまでした!


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