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全宅ツイ不動産チンパンジー情報 第120号


【特集】地震と構造

お鯛:お疲れ様です!準備いかがでしょうか?
白狐:お疲れ様です。準備OKです。
お鯛:ありがとうございます。それでは始めさせていただきます。まず白狐先生の自己紹介をさらっといただけますか?
白狐:構造設計事務所勤務で、いわゆるアトリエ系です。昔はゼネコンにいましたが、脱走して今の事務所に落ち着いています。日頃の仕事は、戸建て住宅からビルものの新築、古いボロ屋の耐震診断等という感じです。

お鯛:矩子にも出てる…。普段のツイートなどからはかなり幅広い知識をお持ちだとお見受けしていますが、建築の構造設計を専門にやられていらっしゃるスペシャリスト。今日は白狐さんにもう1ヵ月経ってしまいましたが先日の能登半島の大地震がありました。そこで色々な建物の倒壊事例がありましたが、このあたりを僕も含めてよく理解していない意匠屋さんとか不動産屋さんなんかに分かりやすく解説していただきたいなと思いお呼びしました。
まず、地震の被害にあわれた方、いまだ困難な生活を強いられている方々には謹んでお見舞い申し上げます

・なぜ輪島市のビルは横倒しになったのか?

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02706/011000036/


お鯛:さて、今回の地震でシンボルのようにもなっているものの一つが7階建てのRCのビルがそのまま横倒しになってしまったというやつですが、ちょっと普通に考えたら信じがたいんですがどうしてこういう風になってしまったんでしょうか?もちろん正確な調査や検証が終わっていないので、今までわかっている範囲や一般論などで結構です。
白狐:まず大前提として、建築学会の先生方の調査が終わっていないので、現段階では原因は不明です。
一般的には、建物が形を保ったまま横倒しになる、というのは物理的には発生しがたいと考えられています。例えば、長方形の墓石を想定しますと、墓石の頂部を横に押せば足元が浮かび上がって転倒します。この時、墓石の形状を保ったままだとすると、重心点を上に押し上げている事になります。模型実験では簡単に倒す事が出来るのですが、建物は非常に重く、地震動による変形だけでは重心を上に持ち上げる事は非常に困難となります。この理論によって、足元が引き抜けても転倒することは無い、と言われています。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02706/011000036/?SS=imgview&FD=1425513433

白狐:ただし、実際には転倒しているため、この理屈が成り立っていないことが明らかです。杭が抜けているのは確認されましたが、圧縮側についての情報がありません。圧縮側の杭についても損傷していたのであろう、とはよく言われますが、冷静に考えると損傷した程度では建物を傾けるのがやっとで、転倒には至らないだろうというのは言えます。実際、今回の地震でも近隣のRCビルで傾斜したものは報告されています。

お鯛:ですよね。

白狐:補足ですが、RC造は個人住宅から超高層のタワマンまで広く使われている構造です。型枠の中に鉄筋を組んでコンクリートを打ち込んだものです。重量が重いことから、住宅内での重量衝撃音などに対する遮音性に優れるのでマンションでよく採用されます。

https://suumo.jp/article/oyakudachi/oyaku/ms_shinchiku/ms_knowhow/src/

建物を支持するためには地盤の強度が必要になります。建物の高さが高くなればなるほど重量が重くなるので、それだけ地盤強度が必要になります。地盤の強度が低い場合には、地中深くの強い層まで杭を打ち込むことで建物を支持します。杭工法は歴史的にたくさんあり、太い場所打ちコンクリート杭や細い既成コンクリート杭や鋼管杭など様々な工法があり、建物重量と地盤条件によって、適した工法を選定します。
杭の設計において、建物を地面に押し付ける方向を圧縮、地面から離れる方を引っ張りとして、自重や地震荷重に耐えられるように設計します。引っ張り側が一般的には厳しく、杭の摩擦などが問題になることが多いです。が、多少引き抜けた程度では建物は転倒しない事が経験上知られています。

https://www.asahi21.co.jp/blog/kuramae2/2018/11/rc.html

お鯛:確かに杭が地盤の中で破断などしようともあそこまで倒れるほどになるのは想像しにくいですね
白狐:写真によると、転倒したときの圧縮側がかなり土に埋まっているように見受けられます。土は当然柔らかいのですが、土に建物をどれだけ押し付けてもメートル単位で埋まることは考えられません。となると、その土がどこかに行ってしまったので支えきれなくなって転倒したのでは?という仮説を持っています。
土を消す方法としては、液状化による体積変化が考えられますが、写真で見る限りそんなひどい液状化に見えませんので、本当によく分かりません。土の中は実は結構空洞があり、今担当している案件でも昔の防空壕が出てきたりしています。そういうのがあったんじゃないかなと思いますが、こればっかりは調査しないと分からないですね。
※液状化について
緩い砂地盤で水分を多く含んでいる場合、地震によって揺れが生じると砂と水が分離してしまい、砂が締まって体積が減ってしまう現象です。砂をバケツに入れた状態で、バケツ側面をトントンすると締まっていくのと似たような現象です。
液状化する事で、地盤が下がったり、地中に埋めている配管が浮き上がったりします。土がずるっと動くので、通常の地震の揺れ以上の力が地下構造物にかかる場合が多いです。

白狐:ただ、これまで沢山の地震被害があって、色々なものが壊れましたが、今回のような壊れ方は非常にレアなんじゃないかとは思っています。
お鯛:元々の建物は地下1階があると登記されていて今は使われず埋められていたという事もあるのでもしかしたらその地下の部分がなにかしら影響を与えてたりという事も考えられますかね?

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02706/011000036/

白狐:もともとの建物に地下1階があるというのは、登記上の話で設計上はなかったんじゃないかと思います。写真をよく見ると、基礎梁と1階スラブ下が見えていて、基礎梁にはフーチングがとりついています。地下階と思しきものは見えません。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02706/011000036/
https://kakunin-shinsei.com/footing/

白狐:地下1階があったとすると、地下外壁が外周にあるはずなのですがそれが見えません。また、一般的には地下階は外周がすべて厚い壁で囲われているので、壊そうと思っても壊せないと思います。
お鯛:なるほど、確かにそうですね。この辺は建築学会などでしっかり調査してもらいたいですね
白狐:この手の調査をしたことがありますが、おそらく訴訟と裁判が絡むので表にはあまり出ないと思いますね。日経アーキが頑張って取材してなんとか、くらいだと思います。なかなか共有が難しいのが現実ですね。

・旧耐震と新耐震の違いとは?

お鯛:今回の地震で改めて耐震性能の重要性を再認識した人も多いと思うのですが、専門でない人でも良く知っていることで「旧耐震」「新耐震」というのがありますがこのあたりの違いなんかをご説明いただいても良いですか?
一般的には1981年6月に耐震基準が改正されたのでそれまでの建物を「旧耐震」、以降の建物を「新耐震」と呼び分けてますが、実際取引をしている不動産屋さんたち「なんとなく弱いんでしょ」くらいしかわかってないと思うんですよね
白狐:何となく弱いんでしょで大体合っています。一般的には1981年を境として新耐震と旧耐震が分かれます。
建築で用いられる構造として、木造・鉄骨(S)造・鉄筋コンクリート(RC)造があります。SとRCについては1981年の新耐震を境として、大地震が発生したとしても、建物は大きく損傷するけど倒壊しないようにしよう、という設計方針が固められました。柱も壁もバキバキになるのですが、床が落ちてこないようにしようという設計思想です。これは現時点に至るまで何も変わっていません。

https://suumo.jp/article/oyakudachi/oyaku/chumon/c_knowhow/shintaishin_kijun/

白狐:木造の方がややこしくて、そもそもほぼ何も決まっていなかった時代から、ある程度決め事をしたのが1981年の新耐震。しかしながら、阪神淡路大震災では多くの木造住宅が倒壊しました。特に壁のバランスの規定がなかったので、商店などで大きな被害が見られました。それをもって2000年に法改正され、バランスの良い壁配置にする規定が追加になっています。木造の場合は1981年の新耐震では不足していて、2000年の法改正以後のものが現状の規格になっています。

https://www.mokutaikyo.com/anshin/anshin03/

お鯛:耐震って言うと一般人からすると想定の地震が来ても壊れないって思いがちですが、バキバキになるけど床が落っこちてこないから押しつぶされて死なないっていうのが正しいんですよね?構造設計の基本として中にいる人が「死なずに逃げられる」事が大事であって建物の損傷は許容している
白狐:それで正しいです。建物の損傷を許容しているのもその通りです。一般的には、震度5弱くらいのよくある地震に対してはひび割れ程度、震度6強の大地震ではバキバキになっても倒壊しない、というのを目標にしています。
お鯛:しかし、住んでいる物件ならあれですけど不動産投資として保有している物件なら結局地震来たら大規模な補修必要になるし「新耐震」にそれほどこだわる必要性無いって事も言えますか?「中に住んでる店子の命なんて知らんがな」って事にはなりますが…。
白狐:それは建物規模や建物の性質によるので何とも言い難いですね。下駄ばきマンションRC8階建て旧耐震ならやめときなはれと言いますが、RC2階建て壁いっぱいの築60年モノだったら、壊れるわけないし旧耐震で安くなってオススメ!とかありますからね。
お鯛:なるほど、やっぱり旧耐震ピロティは怖い?
白狐:新耐震ピロティでもやめときなはれといつも言っているので。。。。なんか難しい設計をしたら出来ますが、壊れた時のダメージが大きすぎるのでやりたくないというニュアンスですね。
お鯛:なるほどw

お鯛:木造では2000年に基準が改正されているっていう事はこの辺の記事はミスリードですかね?熊本地震でもバランス計算していなかった建物は結構倒壊してた記憶があります
白狐:『全壊』という日本語が何を指すかによる感じがします。建築学会の調査なのか、役所の調査なのか、応急危険度判定の事を言っているのか。今回の地震動は震度6強のなかでも、建物を大きく壊す性質をしていたので、2000年基準でも『全壊』は十分あり得ます。建物の傾斜角1/30くらいを目安にしていたと思いますし、この1/30の変形角は設計体系において大地震時の変形角として考えられています。『全壊』しているけど『倒壊』していない、というのが構造設計で考えられている思想ですね。

https://sapj.or.jp/column201801/

お鯛:なるほどなるほど。確かに記事だけだと何をもって全壊と言っているのかなどわかりませんね
白狐:俗に言う、壁とか柱がバキバキというのは変形角1/30くらいをイメージされています。階高3mとすると上と下の階で10cmずれている感じですね。見るからにヤバいですが、それでもパタッと倒れないようにしましょうと言って、釘を打ちまくったり帯筋を巻きまくったりしています。
お鯛:ちなみに木造は2025年にZEH水準住宅の壁量などの改正がまたありますね。いままでなんとなく「金属屋根だけど太陽光乗っけるから重い屋根でやっとくか」って計算してたけど数値みるとそれだけじゃ足りなかったの?ってくらい増えましたね。

・結局木造の構造は何で計算するのがいいの?

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