《短編小説》ジャクエ

テレビに野球中継が映しだされていた。

ちょうど黒人のピッチャーが大きく振りかぶって球を投げようとしているところだった。球は大きな放物線を描いて飛んだ。バッターは一生懸命にバットを振るが、そのフォームはどこかぎこちなく、球はバットをすり抜けキャッチャーの手前に落下した。キャッチャーはバウンドした球をぎこちなくキャッチした。

再びピッチャーが映し出された。

つい声が漏れた。ピッチャーの四肢は欠損していた。さっきまでアップの映像ばかりだっから気付かなかったのだ。映像は切り変わり、ピッチャーの背後からバッター、キャッチャー、審判が映し出された。彼らも同じように、四肢が欠損していた。また、他の選手も審判も全員同じだった。

ネットで調べると、これはインドの『ジャクエ』という野球に似たスポーツらしい。彼らの四肢が欠損しているのは、幼少期に四肢を切断されたからである。インドの一部地方では四肢欠損は富豪の象徴とされており、何もかも世話をしてもらえる立場であることを意味しているらしい。

テレビに視線を移すと、彼らは笑顔でグラウンドを跳ねまわっていた。なぜだか死にたくなってきた。

2019.8.19 夢日記

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