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ダウン症のユーキくんと僕 (2)

ユーキくんがYouTubeで観ていたのは、「ゴールデンボンバー」のミュージック・ビデオだった。お母さんの話によると、他にも「ポケットモンスター」や「お母さんといっしょ」、そして「志村けんのバカ殿様」などが好きで、よく観ているという。すべてユーキくんが学生時代に観たり聴いたりしていたものだ。

障害のある人たちは、余暇を自分で広げていくことが難しい。どんなに好きな音楽でもずっと聴き続けると飽きてしまうように、同じ余暇を続けているといつかは限界が来てしまう。

例えば、「車のナンバーをこだわって暗記していた障害のある人が、急に関心を示さなくなった」なんて話をよく聞く。それは単純に、飽きてしまった可能性が高い。

ましてやユーキくんのように感受性が豊かな人たちにとって、目まぐるしく移り変わる世界のなかで、自分で楽しみを取捨選択し広げていくことは、とても困難なことだろう。

だから、ユーキくんの「音楽が好き」という趣味をなんとか広げていかなきゃいけないと僕は思っている。趣味というのは、好きなことであり「強み」だ。

障害のある人たちに関わっていると、いわゆる「問題行動」ばかりを指摘してくる人がいる。たしかに、人を噛んだり物を壊したりといった過激な「問題行動」は目についてしまう。でも、それは当人にとっては問題ではないことが多い。それに、マイナス要素ばかりで構成されている人なんていないだろう。その人の魅力は何なのか、いったい何が好きなのか、どんなことに興味を持っているのか。それを共有することが、「寄り添う」ということの第一歩なんじゃないだろうか。

ユーキくんがYouTubeを観始めたのは、県外でお母さんと暮らしていた頃のこと。留守番などさせるときに、「寂しくないように」とお父さんのiPadを渡したことがきっかけのようだ。自分で検索窓に文字を入力することは難しいけれど、次々と関連動画が流れてくるYouTubeは、ユーキくんにとって昼夜逆転生活を送る要因の1つになっていた。

お父さんが仕事でiPadを使うときは、ジェスチャーでお母さんのiPhoneを要求するほど、テレビやYouTubeなどのメディアはユーキくんにとっての生活必需品になっている。

そして、ユーキくんは、机の上の昼食には手をつけず、ときおり冷蔵庫からゼリーやジュースを出しては飲食をしている。体重が減ってきたユーキくんに対するお母さんなりの配慮として間食を買い揃えているようだ。

「せめて自宅での生活を快適にしてあげたいと思って」

お母さんは、そう言っていたけれど、親亡き後や社会復帰することを考えると、自宅での生活が快適すぎることは、「ユーキくんが社会復帰するための阻害要因になっているんじゃないか」と僕は考えた。

僕が支援現場でいつも考えているのは、「その支援は本人のためになっているか」ということだ。

YouTubeは、たしかに僕らの生活を便利にしたけど、DVDを借りに行ったついでに本を立ち読みしたり、「次はどんなDVDを借りようか」と店内を巡ったりという偶然の寄り道をなくしてしまった。

ユーキくんのことで言えば、お母さんと一緒にDVDを借りに行って、帰りに自動販売機でジュースを買う、そんな経験がなくなってしまったわけだ。

誰もが1人では生きていくことができない。

そう考えると「本人のルール」と「集団(社会)のルール」にどう折り合いをつけるかが問題となってくる。そこで僕は、ユーキくんが夜間にテレビやYouTubeを観ることができないよう使用時間を制限させてもらうことにした。お母さんが寝るときに、テレビのリモコンとiPadをお母さんの寝室へ持って上がってもらうようにした。

最初はジェスチャーでiPadを出して欲しいという訴えがあったようだけど、いまでは無くても平気になった。

以前よりは、昼夜逆転も改善してきている。

必死でこだわっていたのは、障害のある人ではなく、僕らの方だっのだ。



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