だから、ぼくはヒーローになれない episode 25 -早稲田卒の若き漁師が見据えるWithコロナ時代の漁業の新しい可能性 (中野えびす丸船長・中野圭)-
こんにちは、イイジマケンジ|kushamiです。
僕はソーシャライジング(ヒト・モノ・コトが社会と”つながっていく”)をテーマに活動しているPRパーソンです。PRの考え方・発想を活用して戦略設計・コンサルテーションをおこないながら地域や企業の課題を解決していきます。
PR会社からの独立宣言後、このソーシャライジングの仕事の一発目として、現地に赴いた。
2011年の東日本大震災の被災地である岩手県大船渡市の越喜来へ。
この小さなまちから日本の水産業を救う、若き漁師の話。
とにかく黄色を身に纏う男との出会い
彼の名前は、中野圭。僕の早稲田大学時代の友人である彼は現在、大船渡三陸町崎浜港の漁師である。
彼とはかれこれ2005年から約15年の付き合いになる。早稲田大学の商学部に9月に入学した僕たちは人数が少ないこともあったせいか、自然と仲良くなった。(当時、定員50名の9月入試・入学制度がスタートしていた)
彼は、他の友人とは少し違っていて面白かった。
独特の東北の言葉を操る彼は、岩手県大船渡市三陸町越喜来(おきらい)という町からやってきた。15代続く漁師家系のせがれだった。
面白かったのは、とにかく毎日服のどこかしらに”黄色”が入っていた。彼の独特なファッションセンスは早稲田っぽかった。たまに全身黄色になっていた彼はいよいよ怪しかった。このnoteを書くにあたって大学4年間の写真を見返したのだが、黄色のものを身に着けてない写真は1枚もなかった。
2009年の韓国旅行でも黄色かった中野圭。
カラオケも黄色い帽子の中野圭。
卒業式には私服で来た。インナーにしっかり黄色を差し込んでくる中野圭。
大学卒業後、震災を機にUターン
大学卒業後、彼は一般企業に就職しながら、自分では第一次産業生産現場改善と森林保全を目的とした株式会社を創業するなど、東京を拠点として社会人生活をスタートした。
した直後だった。
2011年3月11日の東日本大震災。
彼の地元である越喜来地区も大きな被害を受けた。震災直後の2011年5月に彼とともに越喜来に行った際の写真がでてきた。被災直後の写真はあまり見たくない人もいるかもしれない。ただ、これだけ復興した事実もぜひ知ってほしい。
ここからの彼の判断は早かった。被災した地元を救うため、越喜来に戻ることを決意。越喜来の新規産業として「越喜来箸」を生産したり、NPO法人理事として岩手発のクラウドファンディング「いしわり」を運営したり、毎年夏には復興の象徴として”越喜来で花火をあげる”okirai summerを実行したり(今年でなんと10回目!詳細は下記リンク参照)。
できることはすべて、自分の力だけでなく、周りを巻き込む力で成果をあげてきた。
家業を継ぎ、16代目漁師に
彼はいま、家業の漁師を継ぎ、自身の船「中野えびす丸」でホタテなどの養殖や漁を営んでいる。
今回僕が訪問するということで、特別に彼が養殖している場所を見せてもらえることになった。
彼の顔がちょっとイケてないのはその前日に飲みすぎて二日酔いだからである。実際はもっと活力がある顔だ。
「船乗りは船酔いしないが二日酔いにはなる」
残念ながら中野えびす丸はメンテナンス中で乗れなかったため、中野えびす丸(小さい)に乗船。
海上に浮いているのが「ガワ」というもので、海中でホタテを養殖をするためのロープのようなものが垂れ下がっている(らしい)。
せっかく説明してくれたんだけど、おそらく3割程度しか理解できていないと思う。けい、ごめん。
そもそも僕は漁業について無勉強だったので、養殖=陸上養殖のイメージでビニールハウスの中で育てる画を予想していたので、まさか船に乗るとはそもそも思ってもみなかった。
ホタテの「耳」にピンを通し、ロープに下げて沖に持っていってつける。
一枚一枚手作業でピンを通し、生育状況をチェックし、1年間、海で成長させてやっと出荷できる。
(写真は中野圭Facebookより)
重要なことは、ホタテ養殖はかなりセンシティブで、ホタテ貝を垂れ下げる水深を細かにチェックしないといけないのだ。深すぎても浅すぎてもだめ。さらに”貝毒”と呼ばれる、海中にいる有毒なプランクトンによって貝が毒化してしまうこともある(実際に今年は貝毒になってしまい出荷停止となってしまった)
コロナよりももっと恐ろしいコト(しかも2つ)
今年の新型コロナウイルス感染症、貝毒の影響などにより、今年の売上は前年比9割減という。
「だけどな・・・」と中野圭は話し始める。
今回の新型コロナもとても他業界と同じく水産業も大きなダメージを受けている。だけど、今回のコロナよりも恐ろしい問題がこれから俺たちを待ち受けているんだ。
それは、
「漁業関係者の高齢化による圧倒的人材不足」
「これまでにみられない海中環境の変化」
この2つがゆっくりと、確実に、おとずれる。
「漁業関係者の高齢化による圧倒的人材不足」
漁業関係者の人材不足は越喜来地区だけの問題ではない。全国の水産業が抱える社会問題である。
国内の漁業就業者数は一貫して減少傾向にある。
▼漁業就業者数の推移
(出典:水産庁「平成29年度 水産白書」より抜粋)
農林水産省の調査報告書「漁業センサス」(2018年)によると、全国の漁業経営体数は5年前に比べ16.3%減少している。また、自家漁業の後継者がいる経営体は全体の17.0%にとどまっている(個人経営体に占める割合)。
彼が属している大船渡市三陸町崎浜港でも、ホタテ養殖を営む人の中においては、中野圭の一つ上の世代が60代オーバーであるという。僕たちがまだ30代前半であるのに。
10年後の2030年、20年後の2040年、崎浜港はどうなるのか。日本の漁業はどうなるのか。崎浜港の多くの漁業家系が後継者問題を抱えている。人生100年時代だから高齢になっても働ける人は働けるが、そうはいっても足腰は弱まり、海上事故のリスクも高くなるのは必至だ。
「これまでにみられない海中環境の変化」
貝毒の話もそうだが、海中環境がものすごいスピードで変化してきている。彼が専門家と話した内容によると、プランクトンの生態が「これまでとはありえない」ことになっている、という。
さらには、国内漁業・養殖業の生産量も減少傾向にある。
▼漁業・養殖業の生産量の推移
(出典:水産庁「平成29年度 水産白書」より抜粋)
水産業は変えられることが山ほどある。だから俺が変える。
彼は、この人材不足や海洋環境の変動からくる自分たちの漁港の未来を案じている。そしてこれは、自分たちだけの問題ではない。全国の水産業全体の問題であり、水産業によって成り立っている僕たち生活者の食にも関わる問題であるのだ。
だからこそなんとかしたいと、彼は動き出している。
実は、上記の水産庁の水産白書のデータに面白いデータがある。
「海面養殖業の収獲量は103万トンで、前年から4万トン(3%)減少しました。魚種別には、ホヤが増加し、ホタテガイが減少しました。」
彼が営む養殖業の収穫量は全体では減少しているが、実は「ホヤ」が増加している。
ホヤは生物学的にいうと魚でもなく貝でもない。見た目が結構トリッキーで、クセのある匂いのため好みが分かれるものだ。だが、ホヤは「海のパイナップル」と呼ばれ、採れたてで新鮮なホヤは本当に美味しいのだ。
彼は、このホヤの美味しさを多くの人に届けるため、また、これからの水産業の新しいカタチをつくる第一弾として「加工したホヤの新商品開発」に挑む。
一定の温度で蒸し、真空にして、煮沸する。そして冷凍保存。新鮮なときの美味しさを保たせ、苦味・臭みを消すための加工方法を探る。
ハイボールやレモンサワーのおつまみとして、こだわりのある人だけが嗜む”プレミアムなおつまみ”という存在に昇華させる。
これは単純な新商品開発にとどまらない。新しい海の資産の価値創造であり、新しい地域水産業のシステムの変革、地域活性化の一助となるものであるのだ。
けんじよ、水産業はまじで面白えよ。
変えなきゃいけないことが山ほどある。
もっともっと良くしないといけない。だから、おれがやる。
彼がやっていること、やろうとしていること、それこそが”ヒト・モノ・コトが社会とつながる”ソーシャライジングなのだ。
だから僕は彼に会いたかったんだ。
地元に愛される”水産業のゲームチェンジャー”となる
彼が不思議なのは、学生時代から不思議と彼を中心に”あたたかい人のつながり”が形成されていくのだ。
今回、彼に同行し、地域活性とブランディングについて議論したのだが、僕たちが話をしているまわりからどんどんと知り合いが増えていき、しまいには僕も新しい出会いが生まれたのだ。彼は積極的である一方、根っこは素直で「人に頼る」ことが自然とできてしまうのだ。だから人が集まり、そこから新しいことがどんどんと生まれる。人徳というか、人を巻き込む力というか。
滞在最終日に訪れた越喜来の居酒屋の女将さんが言った。
「中野圭はさ、越喜来の宝なんだよ。」
彼はこれから大きなシステムと戦うことになるかもしれない。小さなまちの漁師である彼が、まちを助けたい、日本の水産業を救いたいと言っている。
彼は、これまでの水産業のルールや慣行を変えていく、ゲームチェンジャーとなるだろう。当然、反対する人もでてくるだろう。失敗することもあるだろう。だけど、彼は諦めることはない。
地元を愛しているからこそ、地元から愛される。地元を救う水産業のゲームチェンジャー。
彼はこれからも走り続ける。彼自身が変わり続けることで、彼の周りもどんどん変わっていく。そんな中野圭を、僕は全力で応援する。力になりたい。
彼は今日も黄色い服を着ていた。いつか彼が表舞台に立つときも、きっと黄色い服を着ているだろう。
いただいたサポートは、年間でまとめて報告してどう使うか考えて記事にします!(500円までは、自分の甘やかしのためにコーヒー代に消えるかもしれませんがそこは許してください…)