一心不乱のホットサンド
パンが好きだ。
朝はパン派。
休日の朝はゆっくりできるため、いつもより張り切って、食パンに卵とチーズを乗せてトーストし、黒胡椒をゴリゴリかけたりする。
パンはフワフワよりもサクサクが良い。
コッペパンは底が好き。
トーストは耳が好き。
全面が耳になっている食パンの端っこは、切り落とされることが多いが、それこそが食パンの醍醐味だ。
耳好き界隈では、それを「初耳」と呼ぶらしい。
サンドイッチも好きだ。
コンビニでよくあるような、柔らかい耳無し食パンのサンドイッチも良いが、香ばしくてサクッとした食感のトーストサンドがお好みだ。
トーストした食パンに、粒マスタードを塗り、レタスやベーコンを挟む。
十分美味しいが、欲を言えば、ホットサンドメーカーを使ってみたい。
上下の鉄板でパンと具材を挟み、じっくり焼き上げる。
パンの縁が密着し、耳がより一層サクッと仕上がる。
具を中にぎっしり詰められるため、断面も美しい。
ホームセンターに行き、悩みに悩んでホットサンドメーカーを選んで購入した。
良いことを思いついた。
くるみ食パンでホットサンドを作ろう。
香ばしさに魅力を感じるわたしにとって、くるみ食パンは最強だ。
焼いた食パンのサクサク食感に、くるみのカリッとした食感が合わさって、実に面白い。
くるみ食パンを売っているお気に入りのパン屋さんを訪れ、店員さんにスライスをお願いした。
「申し訳ありませんが、焼きたてですのでスライスはできかねます」
何となく「焼きたて」の札が目に入っていたので、ある程度想定はしていた。
学生時代パン屋さんでバイトしていたことがあるから、わたしには分かる。
焼きたてのパンは中身がフワフワしすぎてスライスしにくいため、お断りすることになっている。
ただ、少し経てば粗熱も取れ、慎重にすればスライスできなくもない。
「えっ」
悲しそうな表情を浮かべてみた。
店員さんは言う。
「形が歪んでしまいますので」
それも分かる。
スライサーの刃は電動で高速に回転する。
焼きたてのパンに刃が持っていかれる感覚があり、断面が歪んでしまうことがある。
「あ、歪んでも全然大丈夫です」
わたしは大事にならないように、サラッと食い下がる。
「サンドイッチ用なので、10枚切りでお願いします」
普通のトースト用として5枚切りぐらいなら、自宅のパン切り包丁で切ればいい。
でも、サンドイッチ用の薄切りは、さすがに自宅では出来ない。
だから頼んでいる。
「10枚切り?!そそ、それは、と〜てもじゃないですけど」
大袈裟にプルプルと首を横に振る店員さん。
わたしには分かる。
それは予防線だ。
やってやれないことはない。
「じゃあ8枚切りでいいです」
「でもグチャグチャになってしまうんで。それはそれはもう、本当に」
パン屋さん側からすると、8枚中1枚でも歪んでしまえば、売り物として具合が悪いのかもしれない。
でも、わたしはとりあえずサンドイッチが1組作れればいい。
8枚のうち2枚が成功するなら、残り6枚は歪もうが穴があこうが構わない。
だからチャレンジをしてほしいと言っている。
「大丈夫です。グチャグチャで」
合意形成が図れてさえいれば、良いではないか。
わたしは消費生活センターに駆け込んだりはしない。
押し問答の末、わたしが連れて帰ったのは、スライスされないまま一斤まるごとのくるみ食パン。
さすがに無理だった。
自宅でスライスした。
分厚め食パンのサンドイッチになるが、食べ応えがあって却って良いかもしれない。
早速翌朝ホットサンドデビューすることにした。
バタバタした平日の朝。
寝ぼけ眼ながら、ホットサンドメーカーをおろす。
上下の鉄板でギュッと挟み、ガス火でじっくり。
表から裏へ。
裏から表へ。
そっとホットサンドメーカーを開けると、わたし好みのタヌキ色に仕上がっていた。
絶対美味しい。
一刻も早くかぶりつきたい。
ホットサンドは火傷するほど熱々だ。
お気に入りの四角いお皿を用意した。
焼き餃子やオムライスなどをお皿に盛り付ける時のように、ホットサンドメーカーの上にお皿を逆に被せてから天地をひっくり返す、という手法を使おう。
痛っ。
わたしは手のひらに直接熱々のホットサンドメーカーを乗せていた。
なんかめっちゃ間違えた。
根性焼きやん。
根性焼きって、面でいくことあるんや。
そんなことより、いただきます。
渾身のホットサンド。
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さて、次回の #クセスゴエッセイ は
「わたしを走らす上司と秘書」
をお届けします
お楽しみに〜
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