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彼の物語

ずいぶん昔のことです。

夜遅く電車に乗っていると、ある駅で彼が乗り込んできました。
その瞬間、車両に乗っていた人たちは彼から少しずつ遠ざかっていきました。
彼があまりに特徴的だったからです。

顔や手は黒く汚れていて髪は伸び放題でボサボサ。
着ている服はボロボロで履いている靴も穴が開いている。
年齢は20歳前後。

彼は乗車すると、今にも転びそうにフラフラなりながら
隣の車両を覗き込んだかと思うと車両の連結部付近に倒れ込むようにしゃがみこみました。
そして、床をじっと見つめて動かなくなりました。

彼が握った切符には終着駅行の文字が書かれていました。

どんな人にも「物語」があります。
彼にも何かしらの理由があるのかもしれません。
しかし、私たちは自分の目で見える表面的なもので人を判断してしまいます。

自分の価値観と異なる人がいるのなら、まずは「その人の物語」を想像してみる。

どんな日々を積み重ねているでしょうか?
その中の彼はどんな表情をしているでしょうか?

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