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いつか来た道

今日は知事選挙の日だ。朝食をすませて投票所の小学校に出かける。

バス道路と反対側に行くので、子供が小学校を卒業してからは、投票の日以外はこの道はほとんど通らない。

もう30年近く前のこと。この道は小学校の敷地だった。大きなイチョウが茂り、近所の人たちがギンナン拾いに来ていた。

子どもが幼稚園の頃は、子供を校庭のブランコで遊ばせた。

あのころは、地域の人は誰でも校庭に入れた。

今は正門も裏門も厳重に施錠されて入れない。選挙のときだけ大威張りで門の中に入れる。

顔見知りに会ったり、子供の同級生の母親に声をかけられたこともある。

幼稚園は小学校の先にあった。森に囲まれた幼稚園は区画整理で移動し、今では洒落た住宅が並んでいる。

子どもが幼稚園時代……。

私にとってはいちばんつらい時期だった。母親同士群がってこの道を子供を連れてゆく毎日。

人のうわさ話、気に入らない母親や子供の悪口、自慢話……。

小さい子供を軸にした閉鎖社会の重圧で私は押しつぶされそうだった。。

仕事をすればこの付き合いから逃げられる。そう思って、新聞の求人欄で見つけた会社で午前中だけ留守番役をした。

収入はいくらにもならないが、母親同士のがんじがらめの付き合いから逃げ出せて、ほっとした。

この道の行き帰り、私は完全に浮いていた。働くようになって、もっと浮いた。でも耐えた。

あと少し、あと少しの辛抱。いつかこの集団行動から解放される……。

子供が小学生になってからは、母親付き合いの半径も広がり、ようやく気の合う友達も出来た。(子どもではない。私の友達)

この道はいつか来た道。

歓びも悲しみも孤独も、いっぱい、あった。私はこの道にそれを全部置いてきた。

私は今が一番いい。今の自分が一番好き、今の自分が一番輝いている、と思っている。

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