ほんとうは……怖~い源氏物語(1)
2021年5月8日のみこちゃん記「分かりやすい文章を書くことへのためらい」にインスピレーションを得て、突然『源氏物語』冒頭の一行の授業をやることにしました!
源氏物語の冒頭は深~い霧のような謎に包まれているのです。そもそも紫式部の生きていた時代「源氏」って何?
わたしたちにはイメージしにくいのですが、藤原道長に骨抜きにされ、力を失い、飾り物にされた天皇を連想させる言葉なんです。
藤原絶頂期に『藤原物語』ではなく、なぜ彼女は『源氏物語』を書いたのでしょう。ヒットラー全盛期に『反ヒットラー物語』を書いたようなもの。紫式部は道長の目が怖くはなかったのでしょうか。
紫式部はそんじょそこらのオンナではありません。周到に準備して、道長の尻尾を踏まないように、あちこちに策をめぐらせた~
甘い恋愛小説?とんでもない。現代人がそう思うだけで、当時は読む人が読んだらモデルが全部わかっちゃう生々しい小説。平安版『週刊文春』なんです。不倫あり、政界スキャンダルあり、少女誘拐あり。死体遺棄あり!
あらゆる陰謀を駆使して政敵を潰し、権力をわが手にした藤原道長。天皇さえも逆らえません。紫式部は道長に雇用されている身分でありながら、藤原の天下を光源氏と呼ばれるちゃらい男がめっちゃくちゃ踏みつぶしたお話を書いちゃった!
光源氏、つまり、天皇の血をひくオトコが天皇の地位を取り戻したお話し(前半は)です、道長は怒るどころか大喜び。「光ちゃんのモデルはボクちゃんであるとか世のうわさ。美男子で教養があって、光輝く貴公子ってボクしかいないじゃん」
紫式部よりずっと頭の悪い道長は「面白いのう、続きが早く読みたいのう」とお仕事はそっちのけ、ついには紫さんの部屋から原稿をぬすみ出したりした!(^^)!
おバカな権力者の心を虜にし、それ以上におバカな官僚(貴族のこと)を嘲笑いながら、彼女は冒頭に発煙筒をしかけました。
つまり、当時の人にとってとても「分かりやすい言葉」で、ものすごく「分かりにく」書いたのです。だから源氏物語はすべてが分かりにくい。分かりにくくて当たり前。紫式部はそれを狙ったのです。
道長に睨まれないように『反道長物語』を分かりにくい言葉で書いた!色恋沙汰の厚化粧を施した。「いえね、つまらない色好みのお話しですよ。女が暇つぶしに読むものですよ。オホホ」と。
紫式部の頭にあったのは遠からず武士の時代になる……
要所要所に武士の足音が聞えてくる怖~いお話しは預言書でもあったのです。200年ほど後に貴族政治はほんとうにぶっ壊れた!
では冒頭。
☆「いづれの御時にか……」
いつの時代かは知りまへんけどね、と古女房(すでに宮中からリタイアした老いたキャリアウーマン)が語りだしました。
当時の読者は思いました。これっていつのこと?紫さんの目から見て、いつごろか分からないほど古いお話し?それとも、語り手の古女房から見て、メッチャクチャ古いお話しなの?
それとも、もしかして、末法の世よりもっと先の未来(当時未来という言葉はありませんが)千年後万年後のお話?
なんか怖い~
☆「女御更衣あまたさぶらひたまひける中に(略)すぐれて時めきたまふありけり」
女御とか更衣と役職名で呼ばれる妻たちがいっぱいいらっしゃる中に、めっちゃくちゃ愛された女性がいました」って……これ、もしや天皇の……お話じゃないの!
読み手は顔を見合わせます。
時は若き一条帝の時代。道長によって最愛の后定子さまと引き裂かれ、定子さまは悲運のなかに亡くなった。一条帝は退位すると言い出すし、亡き定子さまは怨霊になったという噂もあるし……
ヤバい!もしも道長の逆鱗に触れたら……
しかし、道長はとても頭が悪かったのか、とても寛大だったのかは分かりませんが、この冒頭に夢中になり、紫式部に命じます。
「早く続きを書け」
一条天皇は道長より賢かった。もしやこれは僕と定子ちゃんのお話かも……現実の僕は定子ちゃんを守れなかった。このお話の桐壷の帝さんは、この女性を守れるの?早く続き読みたいよ~
ちなみに源氏物語の桐壷帝は「10代の少年」という設定です。古典研究者であり小説家の橋本治は18歳と推定しています。 帝は分別ある大人ではない。宮中内暴走族みたいな若者だった!それは後で分かります。
これで第一回の講義は終わり。なぜ紫式部が、モノガタリの設定を「わかりにくく」したのか「分かったでしょうか」。そこに天才ならではの工夫があったのです。ではまた。
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