少年と少女が浜辺でみつけたもの(ショート・ショート・ストーリー・1)
嵐の後だった。少年と少女は浜辺へ出かけた。いろいろな物が打ち上げられているから。麗らかな朝だった。
「なんだ?この絵」少年は平たい石のようなものを拾った。
今から数千年前、対馬の小さな島でのことだ。
「絵?絵じゃないよ」少女は言った。シカとかイノシシとかサルの絵なら自分でも描ける。部族にも絵の巧い人はいる。
でも、これは何だろう。
少年と少女は長にその石を持っていった。「奇妙な形の模様だ。何だろう」長は首をかしげた。「何の絵か分からないが神様にささげよう」
その絵は縄文の人々の周りでは見られない「まっすぐな線」が組み合わされているものだった。
このクニにはまだ文字という物はなかったのだ。
人々は自然の中で見られるものを絵に描いている。それらはすべて柔らかな曲線でできていた。まっすぐな線は自然界では見られないのだ。
大きな島の長がやってきて、その石を取り上げて、もっと大きなクニの長にささげた。
これがこのクニに生きる人が初めて見た「字」だった。それが意味を持つ文字であると分かるようになったのは、それからさらに千年の時が経ってからだ。
日本語の壮大な旅は現代にいたるまで数千年を経ているのだ。
このクニの西方にある大きな国の皇帝は「漢字」を国外に持ち出すことを厳しく禁じていた。大きな城塞の奥に「文字」は隠され、大勢の兵士が周りを固めていた。
だが、文字はアジアの国々へ流れ出ていった……。
最初に「字」の書いてある石版を拾った少年と少女はそれからも嵐の後は何か拾いに浜辺へ行きました、とさ..
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