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ジュピター

高尾五郎著「ジュピター」は、元首相暗殺の預言の書だった
深い闇に包まれた元首相暗殺事件の真相をあぶりだしていく「ジュピター」
十三の出版社に拒絶された危険な書がついに刊行される
今、閉塞の社会に苦しむ日本人が一番読まねばならない本
大ベストセラーを予見させる超ド級の傑作

 
 昨年の山上徹也容疑者が元首相を暗殺しました。日本のメディアは、新聞もテレビも暗殺という言葉は禁句なのか、一切使われずに、銃撃事件だとか殺傷事件とかいった言葉で報道されていましたが、英語ではっきりとアサシネーション、暗殺という言葉で報道されています。この事件は、やはり社会に大きな衝撃を与えたのか、多くの識者たちがこの事件を論じていいます。

例えば、言論を暴力で封殺しようとしたテロリストの蛮行である、個人的な恨みを晴らそうとした短絡的で激情的な暴挙である、世間や社会から脱落した人間の絶望的行為である、他者との友愛を持てない男が走った孤独で寂しいテロリズムである、性愛の自由主義時代から脱落した男が走った悲劇である、政治思想など全くない男が、家庭を破壊した宗教団体に対する復讐の惨劇である等々。それらの論はいずれもその銃撃暗殺事件は絶対的悪であり、絶対的犯罪であるとする民主主義という地点にたっての論なんですね、逆の地点、つまり暗殺という地点にたった論は一つも現れてこなかった。

日本に民主主義が上陸してきたのは、明治維新によってですね。日本における民主主義の歴史は二百年にもみたない。暗殺は三千年、四千年、いや、もっと古くから、おそらく人類が社会を形成したときから生起した政治的社会的行動であり、その思想の深さは民主主義の思想の深さどころではない。暗殺という行為はもちろん持てる強者が、権力者が、大金持ちが、反抗する者が、敵対する者を闇の中で殺戮して行為でもありますが、ぎゃくに持たない貧しい弱者が、虐げられた者が、圧政に打ち砕かれた者が、たった一人で、あるいは数人で、巨大な敵に、巨大な権力に、一人一殺の暗殺によって新しい地平を切り拓こうとする。それが暗殺という行為の根源にある思想ですね。

これまで報道されているところによると、元首相を銃撃した山上徹也容疑者の履歴は、幾重ものねじれた複雑な人生を歩んでいて、たとえば父親は彼の幼少のころに自裁している。母は宗教団体に救いもとめその団体に全財産を捧げるように人生を歩いている。半ば崩壊しているような一家も叔父の経済的援助があって、彼は一流の進学校にはいるが、引きこもりがあり、心を病んで精神科にも通っている。そこから回復したのか応援団の団員となって仲間を鼓舞し、さらに文芸部にも所属して言葉を創造しようとしている。彼の父親は京都大学を、母親は大阪市立大学を出ているが、彼の履歴には大学はない。海上自衛隊に任官するが、在任中に自殺をはかるが一命をとりとめる。小児がんを発症させ片目を失った兄がいたが、この兄が自殺する。かれは懸命に自分の人生を作り出そうと、さまざまな国家試験を受けて、いくつもの資格をとっている。しかし挫折の連続で、圧倒的な現実につぶされていくばかりの暗黒の人生だった。そんな彼の内部に、数千年の歴史をもつ暗殺の思想が泉のように湧きたっていったのではないでしょう。一人一殺の暗殺の思想を懐胎して、その暗殺の思想を刻々と育て上げていった。そして、暗黒の人生に新しい地平を拓くために、彼は決然として元首相を暗殺した。つまり、山上容疑者は、暗殺の思想を彼の内部に形成していくことによって自己を確立していったのではないでしょうか。


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