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シールを集めて

どこのスーパーでも良くやっている、数百円ごとにもらえて集めると何かを割引きで買えるというシール。その何かがたまたま欲しいものであることはまずなくて、大抵のものは別に要らない。ちょっと高級な包丁が30%引きになったり、アウトドア用品が半額になったりして、一見おトクそうに見えるけれど、初めから割引きで並んでいても買うことはないだろうから、おトクとはいえない。だから「シール集めてますか」とレジで訊かれたら、いつも「いいえ」と答えていた。

その日もシールは受け取らず、買ったものをマイバッグに詰めていたら、隣で5歳くらいの女の子がしきりにママに話しかけている。
「ねえねえ、まだ買えないの?」
「まだ、もうちょっと」
「あとなんえんくらい?」
「そうねえ、もう少し」
「早くほしいー」
レジ横に並ぶ大きなプーさんのぬいぐるみの足をなぜながら、女の子が言う。今回は、プーさんグッズが対象で、ぬいぐるみが目玉らしい。

あ、そうか。シールをいったんもらっておいて、こういう子にあげたら喜んでもらえるかも。
ふと思いついて、次から受け取ることにした。よく行くスーパーなので、わりとどんどん溜まっていく。でもこのときのような出会いはそうそうなく、お財布のポケットが無意味に膨らんでいった。

ある日、いつも通りシールとおつりをお財布にしまいながらサッカー台に移動していたら、後ろから80くらいのお婆ちゃんに声をかけられた。
「おねえさん、これ、あげる」
見ると手のひらにこんもりシールが載っている。
「え?」
「さっき、集めてるって言ってたから」
「あ、ありがとうございます…」
お婆ちゃんはニコニコと去って行った。そうか、そういうことになるのかー。ついでに備え付けの台紙をもらって、帰ってから貼ってみたら、もう少しでぬいぐるみ2個分になるところまで埋まった。誰か、要りませんか?

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