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人を思いやるパッケージは、人の心を豊かにする by 石田さん

こんにちは。クルツジャパンのタナカです。
 
2022年5月13日〜29日、パッケージの未来と可能性を探るエキシビション、Packaging-Inclusion vol.1「つながる」を開催しました。その参加デザイナー・関係者への取材を通じて、「パッケージの未来を探る」インタビュー企画。最後にご登場いただくのは、グラフィックデザイナーの石田 清志さんです。今回制作した「CAL.AND」や共創の過程、箔の魅力やパッケージの未来について話を訊きました。

石田 清志(イシダ キヨシ)
1971年福島生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。化粧品会社にてアートディレクターとして勤務後、underline graphicを設立。様々なブランドのブランディングやデザイン・ディレクションを手がける。パッケージデザインの展覧会にも積極的に参加し、表現の幅を広げている。東京ADC、TDC東京、JAGDA、JPDA日本パッケージ大賞、PENTAWARD、等入選入賞多数。

パッケージを開ける、その時に気づくことがある。

ーー今回、生まれた作品CAL.AND について教えていただけますか?

「時間をパッケージする」というテーマで、正十二面体の構造を利用したカレンダーを提案したところ、アイデア自体がロマンを感じさせるということもあり、共感してくれる人が多かったんです。そこに今回、箔押しの加工がトライできるということで、箔の輝きを星座で表現しようと考え、「月日に星座がリンクする」というアイデアをベースに進めることになりました。

Packaging-Inclusionの「包含する、包括する」というテーマに、今年の「つながる」というテーマをどのようにからめていくかが、とても難しかったのですが、、「日常の時間」をパッケージするということで、自分なりに何らかしらの答えが出せたのではと思っています。

作品なんですが、正十二面体の1つのエレメントごとに薄い紙が貼ってあり、それを指で破って中身を引っ張り出すと、日付の数字が印刷されていて、ひと月分のカレンダーになっているんです。月ごとに正十二面体の一片を破って開ける。そしてカレンダーを引き出す。その行為によって、パッケージに「閉じ込めた時間」と「つながる」体験ができるような構造になっています。

カレンダーを伸ばしてみると、月ごとに異なる星座が箔押しで表現されています。全てのカレンダーの玉のパーツを外すと、十二面体の骨組みにも星座が箔押し加工されていて、それが12か月すべてつながっていて、手のひらサイズの小さな宇宙のようにも見えます。

僕たちが生きている現代は、時間やお金に振り回されることも多く、とてもやるせない気分になることも多々あります。「時間」をテーマにすることで、普段は通り過ぎてしまう日常の出来事に意識を向けたり、新たなストーリーを紡ぎ出したりすることができれば、多少なりともそのやるせなさが緩和できるんじゃないかと思って。 

展示では、5個一つのまとまりにしても面白いフォルムになるかもと思い、フジシールさんの技術でシュリンクしてもらいました。一面に銀を刷ったものでシュリンクすることで、宇宙的なイメージも演出できたかも?。フォルムが非日常的で、数学的な感じもします。

ーー日々の生活の中に、人間らしい感情やときめきを思い起こさせてくれる作品ですね。

通常のカレンダーには、めくって見るという動作しかありません。でもCAL.ANDでは、パッケージを実際に開け、ずるずると引き出すことによって、何重にも気づきが起きるような構造になっています。
 
開けて、カレンダーを引き伸ばす。それを見て、「これって今月の星座だ」と気づく。すべて剥がすと、骨組みの構造体の星座も目に入る。1年間使うと、「12か月の星座がつながってる!」と、使っていくうちに驚きが生まれるといいなと目論みました(笑)。

またあらためて星座のことを自分なりに考えたり、星座や暦の歴史を学んだり調べたり、自分なりの問いを立てて、考えるきっかけを提供するパッケージにもなれたらいいななんて思っています。

ーー作品を開けるという、行為そのものが重要なのですね。特別感、ときめき、パッケージを破る罪悪感、いろんな感情が浮かんできました。

「中身を取り出すために、開けなければいけない」、それはパッケージデザインの根源的なところだと思います。日付を引っ張り出すために、綺麗な状態のものを破いてしまう行為は、少し躊躇してしまう反面、心地よさも伴います。記憶や印象が強く残る体験になると思うんです。

“消費されるもの”としてのパッケージから一歩離れてパッケージの文化的な価値、デザインを広げる可能性を探す

ーーPackaging Inclusion 共創プロジェクトは、石田さんにとってどのような意味を持つ場でしたか?

声をかけていただいた時、デザインの可能性を広げるきっかけになる、面白そうなプロジェクトだなと思いました。今回、クルツさんとフジシールさんは、利益の追求から一歩離れた視点に立って、「どうなるかわからないけど、やってみよう」という決断をされた。パッケージの文化的な側面やデザインの可能性をどう広げていくのかを考え、そこに時間とお金をかける試みは、とても有意義なことだと思うんです。
 

参加した当初は、何も決まっていなくて。でもそれが、デザイナー同士で本音で話すきっかけになったんだと思います。森先生(※)から提案された「Packaging Inclusion」というテーマが、みんなの中ですんなり腑に落ちた。そこに、今年は「つながる」という切り口を加えようと、話し合いながら育てていくプロジェクトでした。
※森 一彦(京都先端科学大学教授)。Packaging Inclusion のアドバイザー。
 
同時に、自分の表現をどのように方向付けるかかなり考えました。ここ最近は自然造形物をモチーフにしているものが多いのですが、今回は結果的に宇宙的なイメージになり、いつもの感じと少し違った側面を見せられた気がします。普段の仕事では、最終的にはクライアント側が決裁することが多いのですが、今回のような創作の展示の場合、自分で「これがいい」と決める必要があります。どういうテーマにして、クオリティをどういうものにするのか、自分ならではの表現を見つめる機会にもなりました。

ーー箔や加飾表現における新たな発見は、ありましたか?

箔は、うまく使わないと逆効果になることもあるので、普段から効果的な使い方を意識しています。デザインや使う面積など、ちょっとしたことで箔表現の良し悪しは変わってくると思います。
 
今回は「目立たないぐらいの箔の使い方が逆に効果的なんじゃないか」と考え、よく見ないと見えないような艶の箔を、白や黒の素材に加工してもらい、過度に演出されないよう工夫しています。

箔には、触覚的な効果もあり、空押しも含めてほんの少し立体的な表現になるんです。ワンポイントで特徴づけたり、全面を立体的な柄のイメージにしたりなど、触った時の触感も考えて使うようにしています。

ーー手にする人に組み立てる過程を楽しんでもらったり、教育プログラムの題材にしてはどうでしょうか。芸術的な一点物を組み立てる上で、箔は体験価値を高める可能性がありますね。

教育教材やワークショップでも、今回のモチーフは色々展開ができると思います。12か月の星座を組んであるので、組み立てるときに1つも間違えられないという、、その構造を理解するのも面白いと思います。ほかにも星座の話を組み込んだり、星座がいつから広まったのか、今のカレンダーになったのはいつからか、などを、一緒に考えて行くことができますね。

分岐点にある、パッケージのあり方

ーーパッケージ/パッケージデザインを取り巻く現状を、石田さんはどう捉えていらっしゃいますか?

ディスカッションの場でもその話は出ていたと思うのですが、二極化していくのだと思います。環境を考え、パッケージを極力なくす世界と、パッケージの魅力を突き詰めていく世界。前者は単純に昔に戻る、ということではなく、また、後者も作家性を顕著に表現する、ということではなく。技術も人もアイディアも進化していかなければならない。その進化した技術やアイディアで、豊かな社会を作ることができればいいですよね。

環境に必ず配慮しなければいけないという世界は、待ったなしに迫ってきています。プラスチックもうまく使っていかなくてはいけないし、できるだけリサイクルができ、地球に負荷をかけないやり方を考えていく必要があると思います。

アメリカの企業が始めたLoopという取り組みでは、ガムやアイス、洗剤などが再利用可能なパッケージで提供されています。日本でも昔は、醤油を瓶に注いでもらったり、豆腐も鍋にいれてもらったりしていました。この仕組みはその感覚に近く、大量に作り、大量に捨てるという生活を考え直すという一つの方法です。

一方で、パッケージの魅力は必ずあるはずです。例えば、美味しそうに見える、すごく欲しくなる、どうしてもギフトしてプレゼントしたくなる、そういうパッケージの役割はなくならないと思います。

そこでも環境に配慮する必要はあって、環境に負荷がかかるならパッケージをやめたほうがいいし、過剰な包装はもっとシンプルにする。そして、シンプルでも素敵に見えるものを考えるなど、時代に順応して、デザインしていくことになるのだと思います。

人を思いやるパッケージは、人の心を豊かにする

ーー石田さんがつくりたいパッケージ/パッケージデザインの未来はどのようなものですか?

パッケージを無くす方向と、パッケージの魅力を突き詰めていく方向の間には、いろいろなグラデーションがあると思うんです。良いものは良いし、残っていくものは残っていく。それぞれの場で、デザインを突き詰めていった結果美しいものや面白いものが生まれる。そうしてできた作品が人の心に残るような気がしています。
 
人をどれだけ思いやって作っていけるか、どういう形で人の心に残したいかが重要なんだと思います。「来たものをとりあえずデザインします、いま流行っているからこうします」ということではなく、。ものを作る時には、想像力が鍵になるんだと思います。

ーーデザイナーもクライアントも想像力を働かせて、ビジネスの方向性を決めていくことが大切なんですね。

想像力がないから争いが起きたり、企業利益ばかり追い求めてしまったりする。数字ばかり追っていくと、人の顔が見えなくなってしまう。そうなると、出来上がるものも当然つまらないし魅力的にはならないと思います。

デザインをするとき、自分の表現を突き詰めて、満足するために仕事をしているわけではないんです。消費者が買って喜ぶ顔が見たい、担当の人が喜ぶ顔が見たいと考えています。手に取ったときに、誰かに贈りたくなるものを作りたい。想像力を働かせて生まれたパッケージは、人の心を豊かにする力を持つものになるのだと思います。


ーーその未来に向け、Packaging Inclusionを通じてできることはありますか?

展覧会を、何のために時間やお金をかけてやるのか、その意味は必ず問われると思います。クルツさん、フジシールさんが組んで生まれたプロジェクトなので、箔の魅力やパッケージの加工の魅力をきっかけに、何ができるかを考えていかないといけないですね。

今回の展覧会では、箔やパッケージの魅力を4人のデザイナーが表現していて、「こんな箔の表現があるんだ!」、「こんなシュリンクの仕方があるんだ!」など、「おっ」と思わせる気づきがたくさん生まれていました。

今後、世の中を担う若い人たちが、どういうふうにデザインや環境を捉えていくのかを提示して、考えるきっかけを提供できるといいかもしれません。展示で答えを出すというよりも、教育プログラムも含めて、「問い」を持ち帰るような場の作り方を考えるのもいいですね。


ーーPackaging-Inclusion vol.1では、長期的な取り組みのきっかけを探したいという目的がありました。今回の気づきを整理することで、新たな可能性を提示することができるのではないかと思っています。

1回目にトライしたことで、それぞれの作品のコンセプトの広がりや、未来のパッケージを考えるきっかけ作りはできたと思います。今回、芽が出てきたものを突き詰めて、別の場所で展開したり、vol.2でやることも考えられますね。
 
あるいは社会状況の変化や技術革新に合わせて、コンセプトをゼロから組み立て直し、その時代にうまく対応をしたPackaging Inclusionを新たに創作するのも面白いと思います。
 
このようなプロジェクトは、続けることが大事だと思うんです。やってみると、足りなかった部分や次にやりたいことが出てくる。そして、もう一度トライしてみる。するとまた課題が見えてくる。その繰り返しだと思うんですね。続けていくことで、得られるものはすごく大きくなる。だからこそ、続いてほしい取り組みです。
 
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手に取った人がストーリーを紡ぎ出して行くことができる石田さんの作品。パッケージが伝える、ときめきや面白さについて想像の膨らむインタビューでした。石田さん、ありがとうございました。

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