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「まだ見えていないちょうどよさ」を探る、それがデザイナーの役目かな by 真野さん

こんにちは。クルツジャパンのタナカです。
2022年5月13日〜29日、パッケージの未来と可能性を探るエキシビション、Packaging-Inclusion vol.1「つながる」を開催しました。その参加デザイナー・関係者への取材を通じて、「パッケージの未来を探る」インタビュー企画の3回目。今回ご登場いただくのは、デザイナー 真野 元成さんです。制作した「CROSS CHOCOLATE」や共創の過程、箔の魅力やパッケージの未来について、当社代表の中根とお話をお聞きしました。

フィジカルとデジタルが交差する未来の消費体験

取材は真野さんのオフィス、GKグラフィックスにて

真野 元成(マノ モトナリ)1975年静岡生まれ。
多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業、同年GKグラフィックス入社。ブランディングを中心としたパッケージデザイン、サインデザイン、UI/UX等に携わる。SDA優秀賞、グッドデザイン賞受賞。2016-2019年長岡造形大学非常勤講師。GK Graphics (gk-graphics.jp)

ー Packaging Inclusion で制作した「CROSS CHOCOLATE」は、どのような着想から形になっていったのでしょうか?

10年後、20年後の未来にポイントになると考えているのが、リアルとバーチャルが重なったXR(クロスリアリティ)の世界です。これからの近い未来、フィジカルとデジタルの2つの世界が重なることで、バーチャルでの体験もリアルなものになると考えています。人と物、人と人との間のコミュニケーションのあり方がこれから大きく変わってきます。
 
XRの市場では、並べられるパッケージも形を変え、購買体験も変わるはずです。そこで「どういう体験が起こり、どういうパッケージが必要なのか?」という発想から、CROSS CHOCOLATEは誕生しました。

ー CROSS CHOCOLATEでは、どのような購買体験ができるんですか?

キーワードは、「いつでも、どこでも、誰でも、簡単に」体験できること。そして「多様性のある選択肢」が用意されているということ。突きつめると、一人ひとりに最適化されたSociety 5.0の実現に近づく一歩だと思っています。
 
今回の展示では、未来のオンラインでの購買体験をムービーで紹介しました。チョコレートをアプリから事前予約すると、仕事帰りに移動店舗が自動運転でやってくる。そこでは、過去のバレンタインに販売されたモデルなど、商品を遡って参照できるようにしておいて、実際に「こういうものが欲しい」とオーダーすることができるんです。
 
例えば「妻と出会った思い出のお店で買った特別なチョコレートをもう一度購入したい」という人がいる。でも歳を重ねてくると、たくさん食べられないということもありますよね。そこで、量を少なめにしたり、パッケージのサイズを調整したり、一人ひとりが好みに合わせてカスタマイズができ、「いつでも、どこでも、簡単に」チョコレートを選ぶことができます。

注文時には、もう一つしかけを取り入れました。注文する人の表情や声の大きさによって、パッケージに変化が現れるようにしたんです。パッケージの直線が揺らいだり、パターンになったり、グラフィックで感情を伝えることができるようになっているのも特徴です。
そして、頼んだものがパッケージのエアクッションに包まれて、ドローンで届く。パッケージには、できるだけシンプルな形や素材を採用しました。はじめはエアクッションの中に箱を入れる形を考えていましたが、5年軸で考え実装できるように、チョコレートを直接エアクッションに入れる形にしました。

注文確定後に、箔を印刷したパッケージが完成します。そのまま店頭でディスプレイすることもできますし、プレゼントとして渡すこともできますね。この一連のストーリーを通すことで、フィジカルとデジタルが織り混ざっていく体験ができればと考えました。

ー 展示では、「かわいい」と写真を撮る来場者も多くいらっしゃいました!チョコレート以外の商品パッケージにも使ってみたい、という声もありましたね。

そういう話を聞くと、嬉しいですね。会場では、一工夫してパッケージをモビールに吊るしました。パッケージがふわふわ浮遊しながら回転している。「チョコレートのパッケージじゃないみたい」とポジティブに捉えてもらったり、ユニークな印象を持ってもらえたのかなと思います。

人の情動を揺さぶる、新たなパッケージ表現

ー Packaging Inclusion 共創プロジェクトは、どのような思いで参加くださっていましたか?

正直な話をすると、クルツさんとフジシールさんとが組むと聞いた時、「これは難しいな」と思ったんですね。パッケージデザイナーから見ると、フジシールさんの得意技はフィルムで、フィルムに光り物の処理をする際には、一般的には高輝度シルバーを使います。刷り銀で表現をしたものに、透明の色を載せてメタリックの再現をする方法が、コストや耐久性の面から都合がいいんです。そこに「あえてクルツさんの箔を使う理由ってなんだろう」と、深く考えていく必要がありました。
 
けれど、Packaging Inclusionの共創の過程は、自分たちで新しい価値をつくりあげて、そこに人を巻き込んで行こうという、非常に面白く、視野の広がる試みでした。いろいろな人たちが参加していたので、多様な視点から考えることができたんです。「デザイナーじゃない人は、こういう捉え方、こういう考え方をするんだ」と学ぶ点も多く、共創プロジェクトとして意義があったと思います。

ー 共創プロセスの中で、箔や加飾表現における新たな発見はありましたか?

作品としてどういったものが仕上がってくるのか、ずっとどきどきしていました。パッケージとして成立するクオリティーになるか、やってみるまで分からなかったというのもあって。でも、最終的にはものすごく綺麗なものが出来て、びっくりしました。

フィルムの上に箔がのるのは不思議な感じでしたが、高輝度シルバーとは、全く違う表現を箔は可能にします。例えば、パッケージが透明で中のチョコレートも見えますし、表面の箔の表情の変化も見えます。今まで想定していなかった箔の魅力を感じましたね。
 
パッケージデザイナーの使命は、人の気持ちを店頭で変えることなんです。人は商品を目にすると、0.数秒のうちに、いるかいらないか、好きか嫌いかを判断しています。そういった意味では、CROSS CHOCOLATEは、人の情動へ訴えて、気持ちを変えることのできる表現が生まれたと思います。

「その人の助けになる」パッケージの持つ役割

ー パッケージ/パッケージデザインを取り巻く現状を真野さんはどう捉えていますか?

「ものとして連綿と培ってきたものがどこにいくんだろう?」ということを、最近は考えています。これまで、デザイナーもメーカーも、「ものの物らしさ」、例えばお酒のお酒らしさをジャッジして、ジャンルを作り上げてきました。それが今は、これまで培われてきた「らしさ」とは違った表現が求められたり、ジャンルの境界がだんだん無くなってきています。

それから、置かれる場所が変わればパッケージの表情も変化します。デパートに置かれるのであれば商品説明をする人がいるので、思い切った表現ができる。一方、コンビニだと、一瞬のうちに全部を説明しないといけないので広告的になるんです。
 
パッケージは、市場において手にとって買ってもらうのが第一義です。けれど、生活の中でどう空間を潤すのか、その人の助けになるのかというような役割もあると思っています。


ー 「その人の助けになる」、という観点がパッケージにあるんですね。

そうですね。逆に以前、ディストピアなパッケージをつくったことがあります。日本パッケージデザイン協会の展示企画で、コロナ禍もあって落ち込んでいた時期でもあり、みんながパッケージに対してポジティブなメッセージをのせていたんですね。それを聞いていてなるほどなと思ったものの、逆に徹底的に合理化された世界、「ディストピアになったらどうなるんだろう」という提案をしてみたいと思いました。

例えばタバコのパッケージ。タバコ自体の存在というのは、いいものでも悪いものでもないと思うんです。しかし、人間の価値観が影響し、タバコの存在が貶められるパッケージデザインが施されていることもあります。それは他のものにも言えることで、チョコレートもそればかり食べていると体に悪い、コーヒー、お酒、米も同じです。
 
人間がどのように食べ物と付き合うかによって価値が変わり、パッケージも変わる。そこを考えていかないといけないんじゃないかという思いを込めて作りました。

一人ひとりの願う、「ちょうどよい未来」を形にするパッケージ

ー真野さんがつくりたいパッケージの未来はどのようなものですか?

パッケージには、人の気持ちを変えることができる力があると思います。例えば、化粧品のデザインは「きれいになりたい」、「こういうふうになりたい」という思いがつまったものです。それを毎日使うことで、気持ちが高まったり、気持ちが後押しされるというポジティブなエネルギーが生まれます。
 
一方で先ほども触れましたが、たとえ体に良いものであっても、過剰に取りすぎると毒になってしまうことがあります。だからこそ、一人ひとりと商品とのちょうどよい距離感が保てるパッケージがいいんじゃないかなと感じています。

ー 距離感、ですか。

自分と商品の距離以外に、今の自分と未来の自分との距離感という意味もあります。ユーザーさんが今欲しいと思っているジャストのものよりも、「ちょっと先の未来に必要なもの」とか「少し背伸びした状態」という、「ちょっと先の自分」に近づいていけるような、ちょうどよい距離感を表現する。
 
ただ、個人という単位で幸せを追求すると、個人と個人が主張しあってぶつかりあってしまいます。「ウェルビーイング」という言葉も気になるキーワードなのですが、個人の幸せも大事にしながら、そこを取り巻く周辺の状態もよくしていくという、個人と共同体の両方のバランスを取りながら、同じ方向へ向いていく。個人としての満足が得られ、周りの人とちょうどいい社会的なつながりを結ぶこともできる。そんな一人ひとりやその集合体における「まだ見えていないちょうどよさ」を探るのが、自分たちデザイナーの役目かなと思っていて、パッケージデザインは、そこを目指すべきだと考えています。
 

 
パッケージが作り出す人と社会のワクワクする未来について、構想が拡がるインタビューでした。真野さん、ありがとうございました。

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