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【ショート・ショート】紙飛行機

「それじゃ、だめだよ」
 折り目が甘いし、翼の形も左右歪だけれど、君は一向に気にしない。
「要は飛べばいいのよ」
 私は片目をつぶって左右の翼のバランスを確かめる。君はそんな私を後目しりめに、作りたての紙飛行機を持って庭に飛び出した。
「仕様がないなあ」
 定規で測ったように左右対称で、触れれば切れそうな程きっちり折り目を付けた私の飛行機は、それだけで美しいと思う。
 私は、それを手に君を追いかけた。

 スナップを利かせながら空中に放つ。
 私の紙飛行機は、真っ直ぐ飛んで、折からの風にあおられて、あっけなく地面に突き刺さる。
「今度は、私の番ね」
 ダーツを投げるような仕草で、君の指から放たれた紙飛行機はふわふわと風に乗って飛んで行く。突風も何のの、大きく弧を描きながら桜の枝で小休止。
「ほらね」
 君の鼻が小さく動くのは、得意気なときの君の癖。
「折り方なんて関係ないんだからね」

 私は面白くない。嫌みったらしく、
「名機をお取りしましょうか?」
 と言うと、君は、
「いいわよ、あのままで。少し翼を休ませてあげるわ」
 と宣ふのたもう

 とかく春の空は変わりやすい。
 にわかに拡がってきた黒い雲。
 ぽつりぽつりが直ぐに本降りになって、半時間ほどで上がった。

「虹が、きれいだよ」
 君を誘って庭に出た。
 ずぶ濡れになった紙飛行機が地面に落ちている。
 私は笑いをこらえながら、
「もう飛ばせないね」
 すると、君はそれをくしゃくしゃと丸めて、ぽーんと放り投げた。
「ほーら、飛んだ」

 それは負けず嫌いを乗せて、虹に向かって消えていった。

 そんな君が、私は嫌いではない。


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