弾き語りのために、ボイトレ始めた⑤
カリキュラムは、12回に分かれていて、1ヶ月目のレッスンが始まった。
息の使い方、声帯を意識して声を出すやり方から始まるボイストレーニングと、課題曲2~3曲をピックアップして、母音を出していく歌い方や、息継ぎのタイミングなど、実際に先生がホワイトボードの前で歌詞を書いて、模範の歌い方を聞かせながら講義してくれる、という形式で、とても密度の高い内容だった。
家族に内緒で受けることが出来るのは、オンラインレッスンならではで、イヤホンは必須のアイテムだった。もちろん、うっかり声を出すことは出来ないから、画面を見ながら黙々と受け身のレッスンを繰り返すことしかできなかったが、よく知っていて口ずさんでいた曲が課題曲だったり、一方では聴いたことはあるが、歌ったことがなく、まさか歌うことになるとは、というような高音イメージの女性曲もあった。
もっぱら食後の皿洗いが歌の練習タイムとなった。毎日同じ歌を繰り返し歌うので、夫に感づかれるかしら?なんて思ったのも、全くの取り越し苦労であり、いやに上機嫌じゃないか、と思われていただけで、ホッと胸を撫で下ろした。
会社員と主婦をしながらの隙間時間に、ながらレッスンができるのも、先生のレッスン動画は何回でも見直すことができるのも、オンラインのおかげだったから、地方在住のオバさん会社員にはうってつけの講座だとつくづく思う。給料3ヶ月分は痛かったけれど、ケチケチ主婦は元を取る勢いで、もう毎日動画に釘付けになり、いきおい皿洗いのながらボーカルレッスンにも力が入った。
練習をしながら気がついたことは、いままでいかに適当に歌っていたか、歌っていたつもりだけだったか、という事だった。やはり、全てはその道のプロから習うことはお金をかけてでもする意味はあるのだと、実感できた。
なんだか、還暦をすぎて初めて感じたこの感覚がとても大切なことだと思えて、これからの人生を豊かに生きていくポイントを見つけた気がして、ひとり、密かな喜びにニヤニヤが止まらなかった。あー、やっぱり始めて良かった!
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