友達と別れたあとの

この虚無感はなんなのだろう。
笑顔で「ありがとう、また」と言い車をあとにした直後にどっと押し寄せる不安と疲れと泣きたくなるような気持ち。

少し喋り過ぎたのかもしれない。
彼が聞き上手すぎるから、思いついた話題をぽんぽんと口から滑らせてしまい、彼はその全てを受け止めて、そうして何時間もが過ぎていった。そのどれもが脊髄反射の心からの言葉で、決して取り繕っていたつもりはないのだが、いつも勝手に私の無意識が「場」を意識して律動し始める。コミュ力と引き換えに付与された呪いである。チョロQみたいに一度後ろに引いたら、あとは前に進むしかない。止める術がないのだ。だから話そうと思っていなかったことまでつらつらと話してしまう。「ああ、これ言ってよかったのかな、言う必要なかったんじゃないか」そう思っている最中にも言葉は止まらない。この喉の渇きはなんなのだろう、喋り過ぎたせいか、喋れば喋るほど渇くのに、その先に何かがある気がして辞められない。渇きを潤す何かを求めて、渇いて渇いてしょうがない。
真理みたいなことを話して、自分の思想を嘘偽りなく面白く話して、だけれど心の片隅に立てかけてある「お互いのことをどう思ってるか」と言う箱の中は真っ暗闇のまま、一瞥もせずに忘れたふりをして過ごした。既視感がある。これは恋愛なのだろうか?

隣で眠る彼に抱きしめられてなんだかほっとしたと思ったら夢だった。

リビドーは感じない。ただ一緒にいて楽しくて、自分の本音を認めてくれるから安心できるだけなのだ。
こんなに優しい男はいないと思う。

私に触れたいのだろうな、とわかった。いびきうるさくてごめんね、と私の手に触れる彼の手があまりにも優しかったから。けれど、結局私は触れ合うことを求めていなかった。プラトニックに夜は終わった。

ごめん、まだいらないの。

私は何を求めているんだろう。
つきつめれば話を聞いてもらって認めてもらって会話を通して承認欲求を満たしたいだけだ。承認欲求を満たすためだけの承認フレンドだ。そこに性欲がないだけで、相手の気持ちを搾取してるのと変わりない。承認してくれるセキュアな人材として確保しておきたいがために、「結婚するならこんな人がいいのかもな」だとか情けない発想へ飛躍する。私は結婚コンプなのだ。これが人間の本能だと言わんばかりに男を見るだけで結婚のふた文字が頭から離れなくなる。性依存症の連中となんら変わりない。実際のところも知らずに、異性同士のゴールとしてふわふわと結婚という言葉を使う無邪気な幼稚園児のようだとも言える。それが相手の気持ちを弄んでいるのだからタチが悪い。とにかく認めてほしい、自分の鋭利な思想を披露して尊敬され気持ちよくなりたい。そこに議論のヒリつきなどない。全くもって安全圏内での閉鎖的な活動だ。生きるだけで疲れるから渇きを潤すなら安全圏でやりたいのだ。

その場の刹那的な承認欲求の発散に取り憑かれている私は、それを満たしてくれる男にこれ以上ないほど依存してしまうのだろう。そうやって認められている自分が理想のセルフイメージとして鎮座しているのだ。私の人生にはそういう存在が隣にいなければならない。私の人生は人と違って面白く、刺激的で、ありのままでそれなりに幸せでなければならない。その強迫観念が恐らく私の躁鬱を支配している。だからそれを与えてくれる男にとことん執着する。外発的要因での幸福などギャランティしてはならないのだというのはここ数年で知った。

異性とは異質な存在だ。異質さには緊張がともなう。その緊張感が相手の承認をもって解消されるとき、他にはない快感と依存性をうむ。その感覚がどうにも恋しいのだ。私はどこまでいってもヘテロセクシャルなのだと思い知らされる。
結局その欲に振り回されているうちは本当のサスティナブルな幸福、など訪れない、気がする。

もう失敗したくない。あんなに優しい人間との関係をめちゃくちゃにして、持続性を回復不可能にして、より善かった未来を無碍にしたくない。
だってあの失敗は彼がもともとその資質がなかったとも、私のやり方がまずかったとも、どちらの可能性もまだ捨てきれていないのだ。恐らく両方なのだろう。
あの衝撃的な出会いの、すべては終わったこととして整理はついているけど、完璧な答えはまだ出ていない。

たぶんこの世の基本は一期一会で、それ以上の関係を築けることは奇跡なのだと思って生きていく、それしかできないんだ。結婚などすべてがうまくハマった結果として自然と展開されるものであって。どういう人が私のthe right oneなのか、考えすぎるのをやめろ。恋愛に生きる人類の永遠のテーマだ。おそらく結婚したって治らない。
一人で生きれるようになってから、誰かと一緒になろう。

eternal happinessなんてやっぱりこの世にはないのかな。

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