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いい短歌を詠むために必要なのはテクニック? いいえ「かっこ悪いところをさらけ出せるか」です!

前回、佐佐木頼綱ささきよりつな先生から初心者向けの「短歌とは?」の手ほどきを受け、「それでは短歌を詠んでみましょう」となった素人4人組。どうやら短歌界には「吟行」という歌の作り方があるらしく、その方法にトライしてみることに。
というわけで、今回の記事はいよいよ「短歌を詠みました!」となるはずが……軽い気持ちで聞いてみた頼綱先生の「これまで」も興味深すぎて、すっかり寄り道。五七五七七は、はたしていつ作れるのか……⁉


気になって仕方ないので、先生について深堀りしてみた

頼綱先生の巧みなリードにより、「短歌」についての興味がふくらんできた素人4人組。しかしここでもう1つ、別の興味がむくむくと湧き上がってきた。そう、眼の前に現れた“歌人・佐佐木頼綱先生”について!
だってこれまでの人生において歌人の方と話す機会なんて皆無! かつ、ニコニコと解説してくださる先生はとても明るくてチャーミングだし、文化系のはずなのになんだか筋肉質だし……。
というわけで、ここは好奇心優先。短歌作りの前に「先生について深堀り」してみることに。

佐佐木頼綱先生 (https://x.com/theotsuma

東京都出身。第28回歌壇賞受賞。NHK Eテレ 2019年・2021年「NHK短歌」第2週レギュラー講師、その他、NHKラジオ、フジテレビ、文化放送等に出演。大学非常勤講師、全国各地の短歌大会の選者・講師、企業幹部研修、書道連盟での講演など多数行う。
好きな言葉は「短歌をやってればだいたい友達」(高山邦男)、「筋トレする奴は皆兄弟」(鈴木博達)。

――「歌人の家系」と聞きましたが、何代前くらいまで遡れるんですか?
 
「家系図を遡ると、近江源氏の佐々木高綱たかつなが先祖にいるみたいです。高綱は源義経に従って宇治川の戦いに参加していた武将で、『鎌倉三代記』などの歌舞伎の演目にも登場する人物です。でも、大昔の家系図って僕はファンタジーだと思ってて(笑)。短歌に関わり始めたのは五代前の佐々木弘綱ひろつなからです。江戸末期から明治期に詠んだ歌が残っています」
 
――では、先生も子どもの頃から短歌を?
 
「それが僕、短歌への反抗期が長かったんですよ。自分で短歌を作り始めたのは大学生の後半になってからです。おばあちゃんの体の具合が悪くなったころに、『頼綱は短歌を作らないのかい?』と言われて『俺も作るよ……!』って」
 
――それは「家業への反抗」ゆえ作ってなかったんですか?
 
「短歌雑誌を刊行していた関係もあって、毎月、家に歌人がいっぱい集まるんですね。年齢的にはおじいちゃんおばあちゃんたちも多くて、結果的に子どもの頃からお葬式に出る機会が増えていき、短歌にネガティブな印象を勝手に抱いてしまって。それもあって短歌はやらず、学生時代はキックボクシングの選手をやったり、バックパッカーで海外を回ったり……」
 
――キックボクシング! 
 
「自分で言うのもなんですが、すごくやさしい子どもで、人を叩いたことがなかったんですね。だけど、17歳のとき『このままでいいのかな?』と思ってキックボクシングを始めました。でも、どうしても相手の顔を叩くのは苦手で……もう20数年続けているんですけど、結果的にめちゃくちゃローキックが重い選手になりました」

「殴るのはダメでも蹴るのは平気で」など、笑顔でパワーワードを次々と放つ頼綱先生

――かつ、奥様はオペラ歌手とも聞きましたが。
 
「情報が渋滞していますよね(笑)。オペラ歌手に一目惚れして結婚しました。そうしたら妻の父親は全盲の作曲家で、その関係で視覚障害に関わることになって。今は視覚障害者の方たちの文芸活動を支える活動もしています。あとパラアスリートの人たちとも仲良くしていて短歌を作ってもらっているんですが、これがおもしろいんですよ……」
 
掘れば掘るほど奥深い、頼綱先生。むしろ聞きたいことが増えたんですけど……じゃなくて! 今回はインタビュー記事ではなく、短歌をつくるチャレンジ企画。後ろ髪を引かれながら、本筋に。

いよいよ⁉ 短歌を作ってみよう

短歌の鑑賞の楽しさ、作り方の手ほどきも受けて、「歌人」という職業についてもなんとなく(?)わかった気もしてきて。いよいよ、自分で短歌を詠むターン。初めての「吟行会」だ。
 
「『吟行』は吟ずるを行う、つまり短歌や俳句を詠むことです。吟行会というと一般的には歌人同士でどこかに出かけ、名所を周りながら短歌を詠むことが多いですが、みんなで同じ場所に集まって何かを見たり行なったり、というパターンもいいと思いますよ」(頼綱先生)
ポイントは、みんなで同じ体験をして、それを短歌で表現すること。
 
「僕が思う吟行会のおもしろさの一つは、即興性。みんながその場で詠むので、作品を練る時間があまりありません。だから、その人の視点や素がすっと出てきます」(頼綱先生)
「初心者もベテランも、それぞれの物の見方が歌に出てくる感じですか?」(ライター佐口)
「そうですね。その場の臨場感や現場性も大事です。その天気、その場所、その場に集まった人たちの雰囲気だから、感じ取れたものを言葉にしたい。みんなで場を共有して、作品で経験を分かち合えるのが醍醐味だいごみですよ」(頼綱先生)
 
即興の芸術……なんだか吟行会、かっこいい! 

優勝商品は「57577」Tシャツ!

ここで、先生から提案が。
「せっかくですし、短歌ができあがったら匿名のままホワイトボードに書き出しましょう。それで、全員がお気に入りの歌に1票投票し、最多得票の人には優勝賞品として『57577Tシャツ』を贈呈します」(頼綱先生)
 
賞品が出る! となり、色めき立つ4人。胸に「57577」のロゴを浮かばせたい。

「57577」のロゴが入ったオリジナルの短歌Tシャツ。市場流通わずかなレアものらしい

お題の和菓子に、大人が和気あいあい

さて、今回の「吟行会」。本来なら僕らも歌を詠む旅に出たいところだが、時間的に断念。担当編集Kさんが用意してくれた和菓子をみんなで食べて、その感想を短歌にするという形になった。
金魚に菖蒲しょうぶ、若鮎に額紫陽花がくあじさいなど、改めてまじまじと眺めると彩り豊かで、細やかな細工があって、見とれちゃうね、和菓子。こちとら10歳と5歳の一時もおとなしくしていない系長男次男の子育て中なので、お菓子と言えば駄菓子だし、しかも「彼らを一時的に静かにさせるもの」でしかない。和菓子を愛でながらお茶を飲んでいる時点で、ホッ。
 
なんて贅沢ぜいたくな時間なの、吟行会。

お菓子を購入したのは、東京都中野区野方にある「光進堂」さん。
仕事のたしかさがひと目で伝わってくるお菓子たち

1人1種類の和菓子を選び、短歌を詠む。食べたいものを選ぶか、ネタになりそうなものを選ぶか。

「色は歌に表現しやすいですね。あと、お菓子の名前を入れると季節感が出ていいですよ」(頼綱先生)
 
だったら、五文字か、七文字かを基準に和菓子を用意して欲しかった!……と思っている間に、他の3人は和菓子を囲んであれやこれや。今回用意されたのは「柏餅」、「若鮎」などの季節の定番和菓子と「額紫陽花」「金魚」「菖蒲」「藤」などの名前がついた生菓子、そしてシンプルな「すあま」。ところがここで、意外と参加者たちも「初めて見る・食べる」お菓子が多いという事実が明らかに。
 
「若鮎って初めて見ました」
「そうなんですか? 関西のほうがよく食べるのかな」
「というか“すあま”ってなんですか?」
 
あれやこれや話しながら各自、自分の歌の題材となるお菓子を決めて、実食へ。食べて感じて歌に詠むのだ。

吟行の相棒としてどの和菓子を選ぶか、順番ぎめのじゃんけんぽん
佐口が選んだ吟行の相棒は、額紫陽花。この凹凸感がいいよね

いいところを見せたい気持ちはどうしたらいいですか?

ところで。みんなで短歌を詠むとなると、顔を出すのがおっさんライターの見栄とプライド。できれば、いいところを見せたい! 頼綱先生、このよこしまな気持ちは創作の原動力になる?
 
「僕もテレビで『短歌かかってきなさい!』というコーナーを担当したときは、同じ気持ちでした。対戦相手の芸能人チームはスタッフ総出で考えるからどんどん作品が良くなっていって、こっちも歌人として『負けたくねぇ!』となる。でも、それはよくなかったですね。見栄を張るんじゃなくて、先ほどご紹介した『ホスト万葉集』の短歌のように、自分のダメなところ、人間くさいところを出した方がいい歌になりやすいと思います」(頼綱先生)

かっこ悪い俺を出せる、俺、みたいな? ライター佐口、正念場である

「いいところを出そうとすると堅苦しい歌になりがち。短歌は抒情詩なので、作者の内面を飾らずに描いてあげるといいと思います。そして、内面を描くから、作品を通じておじいちゃんやおばあちゃん、おじさんおばさん、若者、子どもまで、年齢の壁なく仲良くなれるんですよね。それも短歌のいいところです」(頼綱先生)
 
人間くさいところを出す……出せるのか!? そんなことをぐるぐる考えていたら、気づくと皿の上の和菓子はなくなっていた。あれ? 味とか、色とか、匂いとか、完全に行方不明。どうしよう!
ちゃくちゃくとメモを取りながら和菓子を食べているメンバーを横目に、焦りながら短歌作りに入っていくのだった。

(つづく)

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クレジット

文:佐口賢作
編集:川口有紀
撮影:伊藤菜々子
校正:月鈴子
協力:光進堂
制作協力:富士珈機

ライター・佐口賢作 https://x.com/guchi10
フリーライター31年目。ここ10年はビジネス書、実用書などのブックライティングを中心に活動し、お手伝いした書籍は120冊以上。でも、もっと現場に出たい! と思い立ち、本企画に誘われるまま、久しぶりのイベント取材、そしてどうやら短歌を詠むチャレンジに雪崩なだれ込むよう。


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