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創作『冥界ホテル』お客様#2-7
東の空が暁色に染まり始めた。
エインガナは一言もしゃべらず、ただ静かに大樹のそばに佇んでいる。
目が眩むほどの輝きを放って、朝陽が顔をのぞかせる。
そのまばゆい光がゆっくりと湖の水面を渡り、大樹の根から幹、その枝の先までを照らし出した。
その奥に広がる深い森が朝陽の下、一斉に目覚めてゆく。
朝露が光を浴びてキラキラと輝く。
朝を待ち侘びた虫や鳥、動物たちが駆け回り始めた。
生命に満ち
創作『冥界ホテル』お客様#2-6
「エレマニ。ダレトハナシテイルノ?」
小さな可愛らしい声がする。さっきのネズミカンガルーだ。
「ルイス。コンヤハ、ゴチソウニアリツケタノカイ?」
「ウン。オナカイッパイダヨ。ネェ、ダレトハナシテイタノ?」
「イヤ、ダレトモ。ユメヲミテイタヨウダ。フルイトモノコエガ、キコエタキガシタダケ。」
その言葉にエインガナがピクリと動く。
「エレマニ。ワタシダ、エインガナダ。ココニイル。」
必死
創作『冥界ホテル』お客様#2-5
「エインガナさん、お願い、待ってーーー!」
『記憶の扉』の中では、体力を使うことなく飛ぶ事ができる。
でも、お客様を見失ってはぐれたりしたら、時間内に扉から戻ることができなくなっちゃうわけで。
なんとしても追いかけなくては!!
お客様であるエインガナが、うっすら光を放ってくれていて助かる。
暗闇の中、その光を頼りに茂みに突っ込み、枝をくぐり、岩を飛び越え、必死に追いかけた。
大きなシダ
創作『冥界ホテル』お客様#2-4
辺りはすっかり暗くなっていた。
空翔ける竜の頭上から見上げる星たちは、いつもよりずっと近くて、手を伸ばせば届きそうだ。
「エインガナさん。もうすぐ目的地付近です。一度地上に降りてもらえますか?」
「ショウチシタ。」
大きな翼の動きを止めてゆっくりと旋回し、少しだけ拓けた平地にずっしりと脚を下ろして着地する。
頭上のわたしが降りやすいよう、優しく首を下ろしてくれた。
こちらの世界では、わ
創作『冥界ホテル』お客様#2-3
「ココハワタシノモリデハナイ。」
「えっと…。そう思われるのはなぜですか?」
「シズカスギル。コノモリノモノタチハ、ダレモクチヲキカヌ。」
改めて森を見回しながら、耳を澄ましてみる。
草木のざわめき、鳥や虫たちの鳴き声、小川のせせらぎ。
生命の奏でる音に満ち溢れたこの森が、静かすぎるって…
「森の言葉…」
あれこれと思案しながら、ふと左手首に目が留まる。
イチジクウォーーーッチ!!
創作『冥界ホテル』お客様#2-2
「おはようございます。ゆっくりとお休みになれましたか?」
その問いかけに、お客様(火の玉)は僅かに炎をゆらめかせたが、言葉はなかった。
「これから『記憶の扉』にご案内致します。ですが最後にもう一度だけ。」
そこまで言うと、ナムタルがわたしに視線を投げてよこす。
しっかりと視線を受け止めて頷き、説明の続きを引き継いだ。
「制限時間は24時間です。それまでに記憶の中に留まるか否か。お客様ご自
創作『冥界ホテル』お客様#2-1
「ぉ、ぉはよぅございますぅぅ。」
猛烈な2日酔いだ。
昨晩のナムタルは饒舌だった。
自慢のお料理レシピ、冥界生存術、コンシェルジュ心得などなど、情報量が膨大で消化しきれていない。
…というか、覚えてない。
ひたすらに注がれるビールを煽り続けた結果である。
そして、わたし以上に飲んでいたはずのナムタルは、今、目の前でケロッとして、ギロっとしている。
「その情けない顔をあたしに向けるんじ
創作『冥界ホテル』8
「あんた、本っ当〜に良く寝るわよねぇ。感心するわ。」
耳元の声にゆっくりと目を開けると、ぼんやりと映るナムタルの呆れ顔が…
ち、近いっ!!
いつの間にかベッドのど真ん中に大の字で眠りこんだらしい。
そんなわたしの真横にちゃっかり横たわり、肘をついて呆れ顔をこちらに向けるナムタル。
一気にベッドの対岸に跳んで着地。
「どーしてよ!!どーして、わたししか開けられないはずの部屋にいつもシレッ
創作『冥界ホテル』7
さすが冥界一のホテル。
お風呂も最高に素敵。
美しいモザイク装飾の施された浴室。描かれているのが、個性強めの生命体なのは冥界らしさだろう。
壁際に据え付けられた広い浴槽は、口を開けた真珠貝のような形で上品な流線を帯びている。
泡立つ水面に美しい花弁がまかれたその中で、うっとり目を閉じる。
ここへ来てから、どのくらいの時間が経ったのだろう。
砂漠から落ちて、3日3晩寝込んだと言っていた。
創作『冥界ホテル』お客様#1-8
「1、2、3、4、5…」
指差し確認しながら必死に数える。
『記憶の扉』からひとり、またひとり、そして1匹、2匹と送り出し、最後にもう一度忘れ物がないか確認して自分も飛び出した。
「お帰りなさいませ。」
笑顔でお客様を出迎えているナムタルの姿が見えた。
一行の最後に出てきたわたしの背で『記憶の扉』は静かに閉じる。
ナムタルの笑顔が最後わたしに向けられた瞬間。何かが弾けて一気に溢れた。
創作『冥界ホテル』お客様#1-7
「なんだ、込み入った話か?」
突然部屋にやって来たのは、一目で分かる大王様だった。
「我が君…。」「武丁王様。」
2人はもちろん、リンたちも深々と拝礼する。
既に初老を迎えた恰幅の良い姿。随分な年の差婚だったようだ。
ゆったりと歩き婦好の傍らに座る。
「我が妻をそろそろ返してもらおうかの、傅説よ。」
「お邪魔を致しました。どうぞごゆるりとお過ごしください。」
深々と拝礼をし、後退り
創作『冥界ホテル』お客様#1-6
いいのか?
わたしはここにいていいのかっ⁈
こんな、人さまのプライベートを覗き見するような真似っ。
「落ち着いて。わたくしたちもみな、婦好様の真の心を知りたくてここにいるのです。」
激しく動揺しあたふたするわたしに、リンがそっと手を添える。
「真の心とはどういう意味だ?」
「婦好様。あなたは様は、我が君、武丁様のご正室として、多くの民、特に女や孤児に寄り添われてきました。」
ん?想像