さよならシャボン(14) one night
君に会うために整えたこの髪。
何気ない会話の中で、君がこの髪を好きだと言っていたのを覚えているかな。
いつでも準備OKだったはずなのに、すっかり埃を被ってしまったね。
今の私は灰被り姫といい勝負。
自分に魔法を掛けたのも、もう何年も前のことのよう。
魔法使いの魔法は一夜限り、続いているように見えても、それはゆっくり解けているだけ。
一番綺麗な姿でいられるのは一晩だけなのだから。
魔法を掛けてもらっても、王子様が現れないんじゃ意味がない。
整えられた髪も、選び抜いた衣装も、見てくれなければ意味がない。
それでも時々自分に魔法を掛ける。
もしかしたら、ひょっとしたら、現れるかもしれない。
そんな淡い期待を抱えながら、私は自分に魔法を掛ける。
叶わないと知っていながら魔法を掛ける。
今夜の私はきっと美しいのだから。
早く会いに来てと願って。
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