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新興宗教にハマらなかった経緯3

《洗濯機と風邪のイカレた話》

こうして専門学校に入学することを決めた私は、
落ち込む暇もなくアルバイトや準備に追われながら過ごしていた。

だが、事件は入学式前日に起きる。

時は昼下がり。
上京してきた母と近所でランチを済ませてから、母は買い物に、私は洗濯をしに帰宅して、服の洗い上がりを待っていた。

そこで、脱水回転していた洗濯機が
聞いたことのない爆音を立てて止まってしまった。

覗いてみればプラスチックの洗濯槽に大きな亀裂が入って、お気に入りのカーディガンが割れ目に挟まっているではないか。
(ずいぶん不自然な壊れ方だな)
思ったが衣類は救出しなければならない。

亀裂から外そうと服を引っ張ったところ、腕に力が入らずクニャリとへたり込んでしまった。普通に力を入れたのに。おかしい。

少し気になり、体温計を取ってきて脇に差し込んだ。
「37.4℃(あっ、やだなあ・・・)」

明日は大切な日なのだ。
無事だった服はすぐに干してしまい、布団を敷いて潜り込む。
そこへ帰宅した母に声をかけた。

「お母さん、微熱があるんだけど。
あとね、洗濯機壊れちゃったの。
見て。挟まったこの服を引っ張ろうとしたら、全然力入らなくて。
おかしいでしょ。
もしかしたらこれから熱上がるかもしれない。」

「あらら。明日入学式なのにね。大丈夫?」

「うん、今すぐ寝るしかないよね。頑張る。」

件の挟まった服は、母には簡単に外せたが、穴が空いてしまった。
洗濯機はとても古い中古だったから仕方がない。
これで一件落着だ。

あとは寝て明日までに風邪を治すだけ・・・
・・・では、済まなかった。

私の身体が震えだしたのだ。
まるで、さっきの洗濯機の脱水かのように。

寒い。寒い。寒い・・・!!

身体中の筋肉が震えて
歯はガタガタと音を立てて噛み合わさり、高速カスタネット状態。
五分毎に体温を計測するたびに、鰻登りしていくデジタル数字。

死ぬかもしれないとも思ったが、
激しい震えに耐えることに懸命で恐怖は感じない。

そして、30分後・・・体温「39.8℃」

無事に体温が高止まりしたので救急車は呼ばないことになった。
確かに熱が上がるとは思ってたけど、こんなのってあるものか?
30分で2度以上体温が上昇するなんて。
インフルエンザでも数時間かけて熱が上がっていくものではないだろうか。

家から100メートル先のクリニックにヨボヨボになりながら歩いていく。
ヤブ医者の匂いがする、やる気を感じられない心療内科。
きちんとした内科に掛かりたいが、100メートル歩くだけでも怖かったのだ、仕方ない。

「うーん、わからない、ウイルスぽいね」
という診断が降り絶望した。
適当に解熱剤を処方され、またヨボヨボと帰宅した。

最悪だ・・・!

だけど翌朝に検温した数字は「35.8℃」

疲労感はあるもののすっきりと目覚めたのだ。
洗濯機の壊れ方も、体温の昇降も、それらが起きるタイミング、
何もかもがイカレているとは思うが、
入学式に行けることが単純に嬉しかった。

専門学校入学式中、私は泣いた。
今年の東京藝大の受験を失敗してからはじめて泣いた。
校長が何を喋っていたかは全く覚えてない。
とにかく人目を憚らぬ号泣だった。

そして家に帰宅したら、新品の洗濯機が届いていた。

この現象の参考書籍:ライトボディの目覚め



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