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新興宗教にハマらなかった経緯2

《直感と疑いと胡散臭さと》


私は三浪めの美大受験を終了してから、合格発表を待ちながら惣菜工場でアルバイトをしていた。

今年も不合格だった。

ショックでも毎日惣菜を詰めていくのは楽しい。
毎日根気強く絵を描いていたせいか、丁寧に惣菜を詰める単純作業はとても性に合っている。

いよいよ、白田さんに紹介された鑑定の日が近づいてきた。

その稼いだ中から1万円を出して、買ってきた白い封筒に納め、始めての本格鑑定に向かった。

白田さんと待ち合わせて到着した場所

そこは、近所の見たことのある雑居ビルだった。
想像してたようなゴージャスな場所ではなく、カビ臭くて簡素な施設。
施設の奥にはスペースが広がっているようだが、まっすぐに手前の小部屋に通された。

その部屋で待っていた「先生」は簡素なスーツを着ていて、宝石のついていない変わったデザインの指輪をしていた。
身なりの割に真っ赤な口紅をしていることを不思議に思ったが、それが似合っている。

この状況が胡散臭いのか、私の偏見で見ているのか、判断はつかない。
挨拶を済ませ席についてから封筒を差し出し、鑑定が始まった。
手相をみて、生年月日からの鑑定、姓名判断と複合的なもので、良く分からないながら納得いくものだった。

ひとつ強く言われたのは、
親子運は良くない、特に強い色情因縁があるというもの。
不愉快な事を言われたわけだが、インチキだと疑う材料にもならない。
用心深く心に留め置いた。

しかし恐ろしげな因縁より、
今の私にはもっと重要なことがあるのだ!

「あの、先生。質問していいですか?」

「はい、どうぞ。」

「私、絵描きになるのを諦めて
デザインの専門学校に通おうとしてるんですが、
受験は本当に頑張ってきたんです。
大学受験を続けるか、専門学校に行って就職するか、
どっちがいいと先生は、思いますか?」

すると、先生の赤い口元からすっと笑みが消えて、
真剣な表情で口を開く。

「専門学校がいいと思いますよ。」

やっぱりそうか、そうしよう。
この先生を頼る気持ちは湧いてこなかったが、
自分の中にある答えに対して背中を押してもらえて、大きく安堵した。

それから、この団体が主催する
講座の受講を勧められた。

カルチャーセンターのようなサロンで、通うといろいろな発見があって、人生が変わるとのこと。

受講料を聞けば、一般料金が10万円、学生料金は7万円。
週1、2回通って約半年間。毎回おにぎりとお味噌汁が出るのだそうだ。
学生には手軽ではないとはいえ、ぼったくりではない。

たまたまアルバイトをして払えたので、私はここでも直感に素直になってしまい通うと約束した。
同時に、警戒心が高まり頭痛を感じた。

こうして私は新しいステップを、危なっかしく大きく踏み出したのだった。


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