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3行日記(不在、朝顔の鉢、空腹)

七月三十日(日)、晴れ。

昼、出町のおにぎり屋の梅、鮭、高菜、唐揚げ。高野の大垣書店で真木悠介『うつくしい道をしずかに歩く』を買い、恵文社をのぞいてから、一乗寺のいつもの喫茶店へ。三年前の秋、二人の若い男性が立ちあげた喫茶店で、一人で静かに本を読んだり物書きをしたりしたい私のような人間にとって、得がたい大切な店なのだが、今年の春から店主の一人が「諸事情により一時的に店を離れ」てしまった。先月、残った一人の男性にそれとなく声をかけると、もうすぐ戻ってくると思います、ご心配をおかけしてすみません、とのことだったが、それからひと月ほどたってもまだ、戻ってくる気配がない。私にできることはできるだけ通うことくらいか。いつも長居して申し訳ないのだが。

夕方、疏水を歩く。誰かの夏休みの宿題だと思われる、朝顔の鉢が流れの脇にあった。誰もが一度は学期終わりに、自分の身長と同じくらいの高さのものを苦労しながら抱えて帰った、あの青いプラスチックの鉢が。暑さでぐったりしているように見えるけど、大丈夫だろうか。

人の心配をしながらうどん屋にたどり着くと、休ませていただきますの貼り紙が。当てがはずれたとたん、猛烈な空腹に襲われた。南へ十五分ほど歩いたところにある定食屋に軌道修正。向かう途中、気圧の差でペットボトルが凹むように、胃袋がぺっこりと縮こまるような感覚を覚えた。牛丼とうどんのセットを注文した。そういえば、かつて、私はお腹がまったく空かない時期があった。空腹を感じること、食欲がわいてくることの幸せを噛みしめながら、丼飯をかきこんだ。

夜、高野から出町柳まで鴨川沿いを歩きながら、先日の法然院の裏山の森で感じた、空気の質の変化について思いかえす。森に入ってしばらくすると、すうっと涼しくなり、やがて、尾根にでると陽射しが届いて暑くなる。ふたたび木陰に入ると気持ちがいいが、やがて、ある高さを下回ると、もわっと湿度が充溢するのを感じとり、ああ、盆地のお椀の溜まりで日々すごしているのだなあ、と思う。出町柳についた。しだれ柳が風に揺れていた。

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