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【随筆/まくらのそうし】 山葡萄

 祖父に連れられ、踏み込んだ山は、どこか甘酸っぱいような、黒い腐葉土の匂いがした。

 その腐葉土の元となる落ち葉を集めるために、私たちは駆り出され、手伝いとは名ばかりの、枯れ葉と戯れたのだった。

 そして、また別の季節、別の山へと連れられて、今度はカブトムシの幼虫を掘った。やはり甘酸っぱいような匂いの中で、その白く大きな幼虫を見つけては、まるで宝石を見つけたような歓声を上げ、次々飼育箱へと放り込んだ。

 時に、幼い私のスコップは、その宝石を真っ二つに駄目にした。

 孫の姿を見守りもせず、祖父はしばらくどこかへ消えて、戻ってくると開口一番、昔はここにヤマブドウがあっただけどなあ、どこいっただかなあ、だめじゃんなあ、とぶつぶつ愚痴を呟いた。

 熟したヤマブドウは、それはそれは甘いらしい。

 祖父が亡くなり、もうじきに二十年。

 私は未だ、その味を知らない。

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