見出し画像

流行など知らずに

 朝早くから鳴くセミ、虫の類いに、鳥は皆々つがいとなったのか、存在を知らせず、低く聞こえるハチの羽音、茂みの向こうを這いずるヘビ、トカゲ、草の下へ消えゆくカニ共。

 霧の中から夏の日が差し、じりじりと熱を伝える散歩道、ふと目線を上げると、切れた凧のよう、クモの巣が浮かんでいる、露の宿りで装飾された、白いレースの如く、ふわりと揺れる。

 世の流行など、さまざまあれど、それは貧しさ故の刺激欲しさ、生きることに満足ならば、同じ営みを繰り返しても、つまらないとか、飽き飽きだとか、そんな話には決してなるまい、かつてこの島にあった豊かさも、同じ営みの中の美しさ、我が我がのなく、ただ虫と、鳥と、カニやらクモと同じように、人も満足して生きられる、しかし、そうではないと信じ込んだ人の世の、なんと殺伐とするものだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?