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【エッセイ】人は出会える

 なぜだろう、この世の中の希少な例を「知るべきである」と押しつける、あなたは一体誰なのか、なぜ知らなければならないというのか、その病気を、特性を、障害を、文化を、名前を、近頃はひっきりなしに、我を我をと叫ぶ人のかしましさ。

 その木の名前を知ったとて、その木を知ったことにはならぬ、その花を知ったとて、日に当たったか当たらぬか、咲き始めか終わりなのか、その姿は変わりゆく、「知るべきである」は突き出された図鑑の写真、瞬間を切り取ったひとときの姿、これは貴重な花故に踏まぬようにと脅されて、そんな花に誰が近づく、親しみを持つ、傍に置こうと思うだろう、野山で会えば、一つの花と一つの人、ただそれだけのものであるというのに。

 広く浅く繋がる世界の、この人と人ともまともに出会えぬ、そんな図鑑を差し出す人の愚かさよ、そんなものなど必要のない、施設に学級、学校などと、人を選ぶことをやめ、一緒くたにしておけば、人は出会える、人として、何を覚えることも気遣うことも、脅し脅されることもないままに。

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