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【随筆/まくらのそうし】 ジューンベリー

 梅雨の前の日照り時、外へ飛び出した子供がなかなか帰らない。

 何をしているのかと聞かずとも、あっちこっちへ走り回り、春に咲き、実った果実を食べ回っているのである。

 中でも人気というのが、ジューンベリーで、これは何とはなしに植えたものの、なかなかおいしい実を付けるので、密かな人気者なのだ。

 緑の頃はもちろんまだだが、このジューンベリーは赤くなっても駄目である。黒に近い色まで待たねば、その真骨頂は味わえない。

 果実は小さく小指の先ほど、果汁も少なく、小さな種の舌触り、香りと甘さに派手さはないが、その分、いつまでも食べられる。

 日常、のほほんと平和な子供であるが、このときばかりは脚立までもを二脚も持ち出し、少しでも高い場所の実を、手に入れようと必死である。

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