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【エッセイ】 栃の木と、かまいたち

 トチノキの枝が二本、折れている。

 これが特別風の強かったわけでなく、台風や嵐が来たわけでなく、そもそも実の付いたこともないので、動物が登ったわけでもない。

 それなのに、折れている。

 しかも、これが去年も、その前の年も、恐らくこの場所に植え、3メートル程になったくらいからずっと、木が横に枝を伸ばすたび、それを誰かが許さぬというように、直径3センチはあろうかという枝が折れ、ゆえにあれから十数年も経つというのに、木は貧相にひょろりとしている。

 何とも不思議な現象に、先人の思考を借りるなら、これは恐らく鎌鼬かまいたち、その妖怪の一種だろう。

 そう考えれば奇異なことに、視界は墨と筆で描かれた景色、江戸と言わず、縄文の昔からあった山々、空に雲に、花に虫。

 それを風の通り道、突風が巻く地形であろうと、現代人の思考に戻れば、景色は瞬く間に元へと戻り、昔と今の隔絶に、しばし言葉を失っている。

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