百合の山

 真夏に百合の咲き乱れる山である。

 大きく白いのに、毒々しい緋色のもの、桃色のものと様々に、そのひとときを咲き誇る。

 幼い頃は、この百合の花粉と、桃の汁だけは洋服に付けるなと厳しく言われ、なぜなら洗えど落とせぬ染みとなるゆえ、しかし子供が言うことを聞くはずもなく、それだけならば良いのだが、染みがついた服を着ようが、恥ずかしくないという性質、そう開き直るのだからたちが悪い、子供自身は困らない、親の方が何かと言われるのだから、申し訳ないことをしたとも思いつつ、落ちないと言われれば、逆に興味が湧くのも仕方がない、花粉を触って歩いていれば、虫媒ならぬ人媒の様相、子供にして欲しくないということは、言わぬが吉と学びながらも、そんなことで好奇心を潰してどうするというのか、百合の花粉と桃の汁は服に付けると染みになる――やはりそう教えることになる我である。

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