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虻蜂

 藤の花が香り出すと、スズメバチの女王は姿を見せる。

 女王蜂は概して大きいものだが、それでも少し小さめなのが黄色スズメバチ、ぎょっとするほど大きいのがオオスズメバチ。後者は羽音も凶悪で、本能的な恐怖の記憶を、人の脳から引きずり出す。ブォン、ヴヴヴヴ、重低音で、力ある者の堂々たる風格を見せつける。

 この重低音の主は他にもあって、例えばクマンバチもまた、同じような低音を出すが、こちらはスズメバチのように飛び回らず、一所でホバリングをしているので、そちらを見ずとも見当がつく。また、この蜂は人に興味もない、穏やかな種なので、恐るるに足らぬ、むしろ可愛らしいものである。

 一方で、いつまで経っても区別がつかぬのがウシアブ類で、これは大きな虻なのだけれど、羽音も大きければ、スズメバチとそっくりな見た目をしたものもいる始末。人の周りをぐるぐる飛ぶので、しばらくすればそれと分かるのであるが、脅かしやがってと叩いて落とせば、その腹は飾りと思うほどにスカスカで、虎の威を借る狐、その空しいような正体を、垣間見たような気になるのだった。

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