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【随筆/まくらのそうし】 グミ、その後

 グミが鈴なりになるので、食べに行く。

 茂る葉の中、その赤が目に飛び込んでくるのは、人がサルの時代から、赤い実を食べてきたからという。

 もっとも、赤が目立たぬ色覚は、赤い実でなく、虫など他のものが見つけやすい。

 ともあれ、矢継ぎ早に赤を食す。酸っぱく、渋く、甘い果実を、とにかく腹へ入れていく。

 あちらがいいか、こちらがいいか、悩むことなど何もない。傷物は捨て、虫のいるものも捨て、完璧に綺麗な赤だけを、ぽいぽい口に放り込む。

 初めの頃はもったいないと、食べ切れぬ分は摘み取って、せっせとジャムに加工した。

 しかし、いまではそれもせず、食べるだけ食べ、放っている。

 確かにこれは植えたものだが、この木は、実は、人のものではないだろう。季節になれば、実を食べに来る、人はこの木を所有しない。

 サルとしての心を満たし、腹を満たし、見上げた木には、未だ鈴なりにグミがなる。

 それをすべて摘もうとか、食べなければもったいないだとか、そう思う必要はないのだと、その豊かな恵みは教えてくれる。

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