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ハチの子育て、人の手助け。

 幼い頃、とっくり蜂の絵本を見ては、面白い蜂がいるものだと、その姿に心を躍らせた。

 この蜂はイモムシなどに麻酔を施し、巣へ運び、幼虫の餌にするのである。

 人は子供の時分から、犬や鳥というのはまだしも、虫は虫けらと思いがちで、その虫けらが子育てをする、親が子に食べ物の用意をするとなると、人という高尚な﹅﹅﹅生き物と、虫けらという下層のものが重なり合い、まったく奇妙な思いがするのである。

 その絵本は読み込んだため、現実にとっくり蜂を見なくとも、見たような気になっていたが、山へ住んで数年目、とうとう現実の蜂を見た。

 恐らく、とっくり蜂ではなく、泥の巣を作るドロバチ、その蜂は、アジサイの下、ぐったりとしたイモムシを、えいしょえいしょと運んでいた。

 どうやらその手に余る大きな獲物、持ち上げ、運ぼうとするのを何度も落とし、行程はまったく進まない。

 巣穴はすぐ目の前で、こちらにすれば1センチ程、しかし蜂は疲れ果てたか、人がいるのが気になるか、イモムシを諦め、どこかへ飛び去ってしまう。

 そこで湧いたいたずら心、小枝でそっとイモムシを突き、1センチの道のりを詰める。

 しばらく後、戻ってきたあの蜂が、あれと不思議に思ったか、一瞬首を傾げた様子で、しかしそこからもう一息、イモムシを巣穴から詰め込み、巣穴を塞ぐと、嗚呼疲れたと言わんばかりに、再びどこかへ飛び去った。

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