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黒崎きつね
2024年6月23日 08:25
転入から一週間が経ち、風間は内海と登校するのが日常になっていた。たわいもない話をしていると、生徒会員が門の前に並び、挨拶を交わしているのが見えた。「おはよう諸君、くだらないことで盛り上がるのは結構だが、前を見て歩きたまえ。また骨折したくなければね」 プライベートに土足で踏み込む会長が視界に入り、内海は風間の腕を引く。次は何を暴露されるかわからない。見つかる前に通り抜けようと足を早める。「何
2024年6月16日 07:57
「六十四ページから風間くん、音読をお願いします」 担任の指名に風間は席を立ち、クラスメイトに照明を消してくれと頼んだ。先生の注意が飛ぶ前に口を開く。「ワルプルギスの夜、サタンが降臨した。吹き荒れる暴風はサタンの怒りを代弁するかのようにーー」 風間の手元が光りだす。風間が読んでいたのは教科書ではなく、魔法陣の書かれた本だった。「風間くん、教科書を読んでください」「これは僕専用に作った人生の
2024年6月9日 07:54
内海は暗く深い海の底に沈んでいた。息苦しくなって水面に顔を出せば、大きな赤い月がじっとこちらを見ている。その視線に耐えられず再び潜ると、なだれ込んでくる過去に押し流されていく。 ーー調子に乗るな。このレベルならそこらにいくらでもいる。 つい魔が差して、クラスの人気者に嫉妬してコメントを投稿したことがあった。そんな些細な攻撃は、何倍にも膨れ上がって返ってきた。重力に逆らうことなく体が沈んでいく
2024年6月2日 08:19
夏疾風が雨の匂いを連れて、内海の髪を揺らす。傘など持ってはいない。それどころか、鞄の中は空っぽだった。長い休みが明けたばかりだが、読書感想文や大量に出された課題プリントには一つも手をつけていない。 制服のスカートに水滴が降ってきた。これはカエルが喜ぶことだろう。やかましく鳴くはずのセミは、どこかで息を潜めている。日焼けもしていない白い肌に冷たい一滴が伝う。 もっと降れ。大洪水を起こしてしまえ