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黒崎きつね
2023年10月29日 08:03
一時間目のチャイムが鳴る前——。 先生はまだ来ていない。茂は我が物顔で教卓の前に立つ。「えー、お天気です。今日は台風の影響により、午前中は大雨暴風に見舞われるでしょう。午後には火事・地震が起こり、夜には隕石が降ると思われます」「この世の終わりじゃん!」石川がつっこむ。「お次はエンタメコーナー! キラン! 話題の原作、ついに映画化です」 チャイムが鳴るも、当然のように茂は席につかない。一
2023年10月22日 07:46
藤原家の末っ子、小春はいつもより早く目が覚めた。弾んだ足でリビングへ向かうと、兄たちの姿はなかった。席につけば、母が朝ごはんを用意してくれる。「おはようハル、早いね」「うん! だってきょう、『たんじょうび』だもん!」「おめでとう。またお姉さんになったね。何が欲しい?」「スマホ!」「それはまだ早いかな」「えー、みんなもってるのに!」 兄たちにはあるのに自分にはない。それが不服だった。
2023年10月15日 08:00
南雲は藤原家に向かいながら、茂の親がどんな人かを想像していた。家庭訪問である。あれほど明るい子なら、きっと父か母が陽気な人なのだろう。どちらが出迎えるかとドキドキしながらインターホンを押すと、出てきたのは青年だった。聞くところによると、母が仕事のため早めに学校を切り上げたという。 リビングに入ると、左手にはボードとカレンダーが壁にかかり、その下には整頓された封筒や、ファイリングされた書類が棚に
2023年10月8日 07:57
茂の担任である南雲は、放課後の職員室でため息をついていた。ここ一週間、茂に振り回されっぱなしなのだ。南雲が授業を始めようと教室に入れば——。「はーい、お兄さんちょっと止まって」「何だよ?」「思い切り息を吐いてください。あらお兄さん、飲んでますね」「酒気帯び運転どころか徒歩だわ!」 さらにクラスメイトも便乗してくるからタチが悪い。「公務員なのに朝からお酒?」「クビになっちゃうよー」
2023年10月1日 07:54
茂には、三人の兄と一人の妹がいる。茂は長男と同じ部屋であった。朝目を覚ますと、隣に敷いてあった布団は片付けられている。シャーっとカーテンを開ければ、日光が部屋を照らす。ひと月前まで新鮮だった窓の景色は、日常の一部となった。 藤原一家は引っ越したばかりである。茂は鼻歌を歌いながら、真新しい階段を降りた。 妹の部屋の扉をノックして、そっと開ける。手をマイクに見立て、小声で足を踏み入れた。末っ子