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スカイとマルコ(2)・人間は怖い

「止めときな。」

あたしがグルルルと唸り声を上げ、頭を低くした瞬間、隣の柵から声が聞こえた。人間には、「オン!!」と一発低い吠えにしか聞こえなかったはず。
だけど、その男の人は、隣の柵にいる大きな茶色のおじいさんわんこに向かって、「ありがとうな。でも、大丈夫だよ。」とニッコリ笑いかけた。

あたしは拍子抜けした気分になり、唸るのを止め、柵の端の方に引っ込んだ。
やっぱり、この男の人が側にいると落ち着かない。

「僕が怖いんだね。君は警戒心が強い、賢いわんこだね。そして、相棒の方は、大らかで、優しいわんこだね。いいコンビだ。」
男の人は、そう言って、目を細めて、私たちを交互に見た後、「僕はいなくなるから、君も安心して、ご飯を食べなよ。」と、言い残して、立ち去った。

あたしは、ホッとして、ご飯を食べ始めた。美味しいのか、不味いのかよく分からないけど、お腹は一杯になった。
でも、マルコみたいに、眠る気にはなれない。
すると、さっき、私を諌めた隣の柵のおじいさんわんこが、話しかけてきた。

「あの人は良い人だよ。」

あたしが黙っていると、続けて言った。

「君たちは、仔犬だから、すぐに引き取り手が見つかるよ」と。

それはつまり、おじいさんやおばあさんワンコは見つからないって事?

「おじいさんは、ここにどれぐらいいるの?」
あたしが聞くと、おじいさんわんこは、ちょっと悲しい顔をした。

「さぁ、どれぐらいだろうなぁ。でも、ここの居心地は悪くない。ご飯も貰えるし、散歩も連れていってくれる。短い時間だけどな。なんてったって、もう、怒鳴られたり、打たれたりしないのが良いよ。ここの人たちはみんな良い人たちだしな。」

「だったら、ここにいた方がいいじゃない。誰かに引き取られたら、あたしもマルコも怒鳴られたり、打たれたりするんでしょう?」

「ははは、お嬢ちゃんは、人間を知らないんだね。誰でも彼でも、犬を怒鳴ったり、打ったりしないよ。そんな人間もいれば、例えば、さっきのケイタ君みたいに犬の気持ちを理解してくれる、優しい人間もいるよ。」

ふーん、でも、そんな優しい人間に当たるかどうかなんて分からないよね。

下界ってやっぱり嫌だ。嫌なことばっかりだ。
その上、あたしの身体は今まで経験したことないぐらい重たく、疲れ果てていた。嫌で嫌で堪らない下界にいることを忘れたくって、あたしは、マルコのお腹に鼻を押し込み、匂いを嗅いだ。
ホッとする。マルコのお日様のような温もりと匂いに包まれ、いつしか、私も寝落ちていた。





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