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ランナーの話:「富士子さん」中編

富士子さんのトレイル挑戦は、最初から順調だったわけではない。

黒リスも今なら分かるが、ある程度の年齢になると、トレイルはキツい。なぜなら、目がお年を取り、足元が見え難くなり、段差が分かりづらくなり、感覚神経から運動神経への伝達が鈍く、転びやすくなる。反射神経が鈍くなるのだ。ゆっくりトレッキングなら問題ないが、トレイルレースとなると、ある程度のスピードで進まないと関門に引っかかって、そこでアウト(棄権)である。

だが、富士子さんはボストンマラソン出場資格を持つレベルのランナーである。つまり、走力はある。そして、根性も人一倍ある。後は、ロードとの足場の違いに慣れるだけだ。

富士子さんは平日、NYCから車で1時間ほどのベアマウンテンへ、単独で行き、山の中で、水不足になったり、道に迷って散々な目に遭ったりしながらも、特訓を重ねた。好きこそ物の上手なれ、とは良く言ったもので、富士子さんのトレイル能力はどんどん上がっていった。

そう、どんなに歳を取っても、”始める気持ち=チャレンジ精神””続ける気持ち=根性”があれば、上達するのだ。例え、若い人が数ヶ月で出来ることが1年かかろうと。問題は、それを自分がやりたいか、やりたくないかなのだ。

しかし、UTMF100マイルを完走をするには、まだ、何かが足りなかった。それは戦略なのか、運なのか、それとも、その両方なのか。

2014年、大らかな性格の富士子さん、ゆっくりペースで進み、また、途中で脚のマッサージを受けたりとレースを満喫したのは良いが、ほぼ最後の関門に引っかかり、アウト。

2015年、自分はペースが遅いからと、後ろからスタートし、シングルトラック渋滞に巻き込まれ、ロスタイムが1時間以上。必死に関門突破を狙うが、アウト。

富士子さんは泣くほど、悔しがった。

今の自分はUTMF100マイルを走り切れる実力はある。なのに、ゴール出来なかった。納得がいかない。

でも、レースとは、どんな困難があれども、その決められた時間内にゴール出来なければ、それは完走とは言えない。運も実力のうちなのだ。それが勝負の厳しさなのだ。

最初の100マイルレースは、UTMFだと決めていた彼女は、ここで大きな壁にぶち当たり、前に進めず、もがき苦しんだ。

諦めたくない。今度こそ、今度こそ、UTMF100マイルを完走してみせる。

富士子さんのUTMF100完走への執念は、更に燃え上がった。

(つづく)






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