「将来美人になるように」
母はそう言っていた。小学生の頃
自分の名前の由来を調べてきてください。
母に聞いたらよくぞ聞いたわね、みたいな顔をして真顔で言ったのだ。
「私の小さいときは女の子には子がつくものだった。でも私はダサいから子はつけないって決めてたの」
そんな母のなりたかった名前は「りか」だそうだ。
そんなわけで私が生まれたとき迷いなく母は「りかにする!」と言ったんだそうだ。
しかしほどなくしてりかは撤回される。
リカちゃん人形じゃあるまいし、変よ。
そんな周りの言葉に母はさらりと前言撤回し私の名前には「美」がついた。
将来美人になるらしいの、だから美をつけたの。
私を取り上げてくれた産科医の名前の一文字何故かいただく形にもなった。
普通、夫婦から一文字ずつとって、なんてのはよく聞くけれどなぜとり上げてくれた先生の名からもらうのかは未だ不可解なだけ。
その漢字が元々は男性によくあるもので女の子にはあまり使われないものらしい。
この名前は後々私の人生にささやかながら影を落としまた道を繋げたのだ。
それは高校入学時のこと。
合格通知をもらい入学式に出席した日。いきなり数人の高校側の教師に取り囲まれ別室へ案内される。
君、女子なの?
はい。
高校側は私の名前から男子だと思い込み合格通知を出したのだと言った。
クラスメートは男子ばかりだし、女子は君一人だし別の科へ変わることも今なら出来るがどうする?と聞かれて「いや、問題ないです」と答えた。
クラスメートは男子ばかりだったからあれ?とは思ったが女子同士のつき合いが下手くそな私にとってはむしろラッキーなことだった。
また担任の名前が漢字は一文字違うが同じ読みをする名前だったので担任も男子だと思ってしまったよう。
ラッキーでもあるがその後の数年は天国と地獄だった。
私は自分と同じ漢字の人に会ったことがない。が母はテレビでみたことある!とそれはそれは喜んでいた。
その人はとても美人な方だったそうで母の私のネーミングセンスは間違いない!と思い込むのに拍車をかけたのだ。
とはいえ、この名前は個人的には年配の人の名前のようで若い頃は好きじゃなかった。
自分の名前を好きだの嫌いだの言ったところでどうしようもないのだが。
若い頃、名前を揶揄られて
「義理人情に美しいと書くくせに優しくない」と親戚のおばさんに難癖をつけられたことがあった。
名は体を表す、のだろうか。私はけして義理人情に美しい人間ではない。きっと母だってそうなってほしくてつけたわけじゃないだろう。
義理人情に美しい、ってなんだよ、とほくそえむ。
世界にひとつしかない名前をありがとう。私という人間のために名前をつけてくれてありがとう。
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