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傘のない男2

「あなたに伝えるべきか迷ったんだけど」

そう言ってる妻のその横に
男が1人。

「河合・・・」

「久しぶりだな、竹中」

私から妻と子供を奪った男。

そして、
必要とあればこうやって
平気で私の前に現れるような男。

相変わらず目がぐりっとした
丸顔が特徴的なこの顔は
忘れようにも難しいようだ。

河合は不動産会社を経営しながら
地元の政治家や裏の組織にも顔が利き、
今やこの辺ではまとめ役的な存在となった男。

私も会社をやっていたころは
その河合と負けないほどの力を持っていたが、
今はただの老いぼれになってしまった。

私が力を失った分
河合がその力のほとんどを手にいれてしまった。

当時、私たちは
自分では手に負えないほどの大きな案件は
お互いに協力しながらやってきたが、
本質的にはライバル関係であり
利害が一致しなければ
敵対することもしばしばあった。
とても冷酷で
どんなに協力関係にあっても
目的を達成するためなら
簡単に裏切るような男だった。

そんな中、私のもとへ
地元の加工工場から
ある大きな案件が舞い込んできた。

もし、これを成功させることができれば
この街では私が頭一つ、二つも
抜きに出るくらいの大きな案件だった。

何を思ったのか
この時、私はいつものように
河合に協力を仰ぐことはせず、
自らの力でやりこなそうとした。

それがなにか別のものからの圧力で
計画の頓挫を余儀なくされて、
数億という金が吹き飛んでしまった。

なんとか会社を存続させる方法を模索したが
上手くはいかずそのまま倒産へと追い込まれた。

そんな倒産をする少し前のこと
私は恵子から離婚を言い渡された。

恵子は昔から打算で動く
合理主義者だった。

私がこのような状況になった途端に
自分と子供を養ってくれる男を
探していたのだろう。

そんな時に恵子が目をつけたのが
河合だった。

河合は以前から恵子を女として見ていたことを
私は知っていた。
恵子も自分が女として見られていることを
理解していたはずだ。

そういう嗅覚は鋭い女だった。

そんな女ではあるが、
子供には
しっかり母親をやってくれていることが
唯一の救いだった。

私を裏切り河合との関係を始めたときに
子供の面倒まで見てくれることを条件に
河合との関係を始めたのだろう。

結果的に河合のもとで
子供たちと裕福な暮らしをしている。

それを知らされたとき、
もはや力を失った私は
どうしてやることもできない。

だから恨む気持ちよりも
子供達には
金に苦労をかけながら
私のもとへいるよりも、
今の生活を送ることができて
良かったのかもしれないという
気持ちが芽生えてしまったのだ。


「竹中・・・、
面倒なことになったぞ」

「なにがあった」

「洋一が消えた」

河合は私を一点に見つめ
そう言った。

洋一は今年の春から中学生になった
私の長男のことだ。

「どういうことだ」

「今はまだわからん。
ただ、俺の勘ではさらわれたと思う」

なんの根拠もないのだが
私も河合と同感でそのような気がした。

「警察には?」

「すでに連絡済みだ」

「どこか心当たりはないのか?」

「それを今回ってる」

「それで俺のところへ?」

「そうだ」

「残念というべきか
俺ではない」

私を見た河合は
私ではないと判断したのだろう。
小さく頷いた。

「お前たちは家に帰れ。
なにか連絡が入るかもしれん」

「それは大丈夫だ。
何かあればすぐに連絡が入るようになっている」

「俺が洋一を見つけだす」

「お前も父親の顔を持っているんだな」

「どういうことだ?」

私も仕事に重きをおいてはいたが、
それなりに父親としてことも
やっていたつもりだ。

「今はそんなこと言ってる場合じゃないわ」

恵子が話を割って入った。

そう言って
家に帰っていく二人を見ていると
私の妻だった女が
今は河合の女とは皮肉なもんだ。
と思った。

さて、
どうやって見つけ出すか。

私は真っ先に頭に思い浮かんだ
ある男に会いに行くことにした。

私のアパートから少し歩いたところに
西条通りという大きな道に出る。
その西条通りを500メートルほど歩けば
少しさびれた飲み屋街が広がっている。

私はその飲み屋街のなかにある
入り組んだ掘っ立て小屋の間の
真っ暗な通路を進んでいった。

奥にすすんだ先にある
一つの小屋の扉を開けた。

「旦那、久しぶりだな」







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